今回の成果を活用することで、より多くの2型糖尿病の治療薬開発が期待できる※写真と本文は関係ありません

理化学研究所や東京大学などは1月28日、日本人の2型糖尿病の発症に関わる7つの疾患感受性遺伝子領域を新たに同定したことおよび、同領域内の遺伝子と2型糖尿病治療薬のターゲット遺伝子とのつながりを調べ、新規治療薬候補を同定したことを明らかにした。

2型糖尿病は、生活習慣などの環境要因とともに、遺伝要因が発症に関与することが知られている。共同研究チームは、日本人集団のみを用いた2型糖尿病の「ゲノムワイド関連解析」(GWAS)としては最大規模となる約4万人のゲノムの「一塩基多型」(※SNP)を網羅的に解析し、別の日本人集団約1万3,000人のゲノムを用いた検証解析を行った。

Biobank Japanに登録されている2型糖尿病患者1万5,463人と非患者2万6,183人の日本人集団のDNAサンプルを用いてGWASを実施。ヒトのゲノム全体をカバーする約580万のSNPを調べたところ、疾患感受性との関連を示す遺伝子領域を新たに17カ所発見した。

この遺伝子領域について、患者7,936人と非患者5,539人からなる別の日本人集団で再現解析を行い、GWASと再現解析の結果を統合した結果、疾患感受性との強い関連を示す7つの遺伝子領域(CCDC85A、FAM60A、DMRTA1、ASB3、ATP8B2、MIR4686、INAFM2)を同定した。これらの遺伝子領域に含まれるSNPのうち、発症しやすいタイプのSNP(リスクアレル)を持つ人は、リスクアレルを持たない人に比べ、1.1~1.2倍程度、2型糖尿病にかかりやすかったという。

研究チームはさらに、これまでに解明された疾患感受性遺伝子領域の情報と多様な生物学的・創薬データベース上の情報を照合。新たな2型糖尿病治療薬のターゲットとなりうる遺伝子を探索した。2型糖尿病に関連する83の既知の遺伝子領域と、今回新たに同定した7つを合わせた計90の遺伝子領域の遺伝子について、多様な生物学的データベースとの網羅的な照合を行った。

その結果、既存の糖尿病治療薬に加え、糖尿病以外の病気に対する治療薬として開発中の薬剤の中にも、2型糖尿病疾患感受性遺伝子をターゲットとしているものが複数存在していることが判明した。その中でもKIF11、GSK3B、JUNはそれぞれがんや白血病などに対する治療薬として、いずれも臨床試験中の薬剤のターゲット遺伝子で、2型糖尿病の治療にも適応できる可能性があることがわかった。

理化学研究所は、「2型糖尿病発症のより詳しい機序を解明することで、個人の体質に合わせた治療法の確立につながる可能性があります。また、今後新たに得られるゲノム情報とさまざまな生物学データベースや創薬データベースの情報を総合的に活用することで、より多くの治療薬の開発が期待できます」としている。

※一塩基多型(SNP)…ヒトの染色体にある全DNA情報は、30億にもおよぶ文字の並び(塩基配列)で構成されている。この文字の並びは暗号(遺伝情報)となっているが、その99.7%は全人類で共通。0.3%程度に個人差(遺伝子多型)がみられるが、遺伝子多型の違いが病気のなりやすさなどに関係していると考えられている