米大統領候補を決定する民主党と共和党の予備選が2月1日のアイオワ州でスタートする。6月上旬まで続く予備選で勝利した候補が7月の党大会で正式に指名を受け、さらに副大統領候補を指名する。その後、両党の指名候補による選挙キャンペーンが展開され、11月8日の投票日を迎える。大統領選挙は実に8か月を超える長丁場であり、お祭りなのだ。

予備選では、早ければテキサスなど南部を中心に14州が集中する3月1日のスーパーチューズデーあたりで序盤戦の最有力候補(フロントランナー)が明確になりそうだ。

大統領選挙主要スケジュール

共和党では、単なる盛り上げ役とみられていた不動産王ドナルド・トランプ氏が正当な候補へと浮上してきた。多くの世論調査によれば、共和党員の間で最も高い支持率を誇り、2位のクルーズ上院議員に差をつけているようだ。

一方、民主党では、最有力とみられるクリントン氏がアイオワ州でサンダース上院議員にリードを許している。果たして予備選を消化するにしたがってどういった序列になるのか、はたまた新たな候補が台頭してくるのか、非常に興味深いところだ。

アイオワ州世論調査(1/15-20 CNN)

米国では政権が交代すると、とりわけ政権党が代わると、政策が大きく変更されることがあり要注意だ。やや古いが、81年に誕生した共和党のレーガン政権は、大規模な減税と軍備拡張を推進した。減税が税収増につながると信じ、またソ連との冷戦下で「強いアメリカ」を標榜したからだ。結果は、財政拡張と金融引き締めのポリシーミックスのなかで、ドルが大幅に上昇し、それがドル高是正を目指した85年9月のプラザ合意へとつながった。

米国では政権が交代すると、とりわけ政権党が代わると、政策が大きく変更されることがあり要注意

また、93年に誕生した民主党のクリントン政権は、日米貿易不均衡への対策としてドル安円高誘導を行った。一定水準の円安を容認しないという意味で、当時の財務長官の名をとった「ベンツェン・シーリング」という言葉がもてはやされた。ただ、95年以降は後任のルービン財務長官が米国へのスムーズな資金還流を優先して「強いドルは国益にかなう」と繰り返し、ドル高容認へとかじを切った。

ことほどさように、新政権の政策は金融市場に影響を与えるということだ。もちろん、大統領候補が、選挙戦序盤に掲げた政策を一貫して主張し続けるとは限らない。また、議会の勢力図がどうなるかによって、政権の政策は日の目を見もするし、葬り去られたりもする。それでも、有力候補が声高に主張するならば、市場も無視するわけにはいくまい。

ところで、共和党上院リーダーのマコンネル議員によれば、TPP(環太平洋戦略的パートナーシップ)の議会承認は大統領選挙後まで先送りされるようだ。上述の4人の候補はTPPに批判的、ないし反対の立場を鮮明にしており、TPP成立にとって不安材料だ。新大統領の就任は2017年1月であり、それまではオバマ大統領が執務する。しかし、オバマ大統領が求心力を失ってレイムダック化するなかで、議会が新大統領の主張を忖度(そんたく)しないとも限らない。

また、共和党のトランプ氏は中国を為替操作国と即座に認定して、強硬姿勢で交渉に臨むとしている。また、移民規制の強化を主張している。他方、クルーズ議員は自身の政策のなかで「ドルの安定」を謳っており、現在のドルは「高い」との見解を表明している。

有力候補がドル高けん制発言をしたり、諸外国への配慮を怠った内向きの政策を提案したりするようであれば、グローバル化の進む金融市場にもそれなりの影響は出そうだ。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。