岡山大学はこのほど、酵素の分子進化を立体構造で理解する新たな解析手法を確立し、同手法を用いることで硫酸還元菌の水素代謝酵素である[NiFeSe]ヒドロゲナーゼの分子進化メカニズムを解明したと発表した。

同成果は同大大学院環境生命科学研究科(農)農生命科学専攻の田村 隆教授の研究グループによるもので、1月28日に英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

現在、地球上の生物が持つさまざまなタンパク質は、共通祖先から派生して分化してきたと理解され、その系統関係が議論されている。しかし、これまで進化の数理モデルで復元されてきたのはアミノ酸配列までで、タンパク質の機能解明に必要な立体構造として考察することはできなかった。

キャビティ形成に関わるアミノ酸残基をスティック構造で表記し、キャビティ壁面を黒色で表記した図 。

今回の研究では、統樹解析から得られたアミノ酸配列情報に基づき、スーパーコンピューターを用いて信頼性の高い立体構造を再現する斬新な計算化学の手法を確立。同手法により[NiFeSe]ヒドロゲナーゼの立体構造を再現することで、微生物が、生息する環境の酸素曝露リスクに応じて、酵素の立体構造を変化させてきた経緯とメカニズムを解明した。具体的には、ある種の[NiFeSe]ヒドロゲナーゼが持つ巨大な穴(ガス・キャビティ)は、深海の熱水噴出口のような酸素が存在せずに水素が潤沢に供給される環境に適応した菌において形成されたものであり、日中は陽光が差し込み酸素を発生する光合成生物が繁殖する浅瀬の堆積層に生息する菌では、ガス・キャビティが閉じた立体構造が維持されてきたことがわかった。

今回の成果について研究グループは「系統樹として算出された配列情報を生物学的に意味のある立体構造として描くことができた最初の研究成果であり、酵素の分子進化を立体構造の変遷として考察できることを提案した画期的成果でもあります。従来、不可能とされてきたことを可能にした革新的な本研究成果は、タンパク質の分子進化研究に大きく寄与すると共に、将来的な産業応用にも大きな波及効果をもたらすことが期待されます。」とコメントしている。