東北大学(東北大)はこのほど、国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟で線虫を育てたところ、筋肉がやせ細ることを確認したほか、体が細胞レベルで微小重力に適応した状態になることが示唆されたと発表した。

宇宙から帰還した線虫を脂質染色した写真(東北大 東谷研究室)

同成果は同大大学院生命科学研究科の東谷篤志 教授と宇宙航空研究開発機構(JAXA)の東端晃 主任開発員らの研究グループによるもので、英国科学誌「npj Microgravity」に掲載された。

今回の研究では「きぼう」で実施した2004年と2009年の二度の実験を通じ、宇宙で生育したモデル生物である線虫のからだの変化を分析した。その結果、宇宙で育った線虫では筋肉を構成する分子群の遺伝子レベルでの発現低下が確認されるとともに、タンパク質の発現レベルでもこれらが顕著に低下することがわかった。この遺伝子・タンパク質の発現低下の結果、宇宙で育った線虫の筋肉はやせ細り、運動能力が地上の6割に低下していた。

また、細胞の形を支えるために必要な細胞骨格に関連する分子群や、エネルギーの生産に関わるミトコンドリアでの代謝酵素の発現低下も確認。さらに、カロリー制限時の制御などに関わる可能性が示唆されている遺伝子の働きが、微小重力下で上昇していることもわかった。これは、宇宙ではエネルギーをあまり必要としない体になっていることを意味し、個々の細胞レベルで微小重力に適応した状態になっていると考えられるという。

ISSに長期滞在する宇宙飛行士は筋肉の維持のために船内で毎日トレーニングを行っているが、今回の結果によってトレーニングで負荷がかけられない内蔵などの個々のレベルでは、微小重力に適応する変化により、大きな影響を受ける可能性があることが示唆されたことになる。同研究グループは今後、3回目の宇宙実験を実施し、宇宙環境から受けた生理的な影響が後の世代まで影響するのかどうかを把握することを目指すとしている。