原油価格がなかなか下げ止まらない。指標となるWTI先物価格は1月15日に1バレル=30ドルを割り込んで約13年ぶりの安値となり、世界的な株安を演出した。本来、原油安は産油国にとってはマイナスだが、原油の輸入国にとってはプラス、石油産業にとってマイナスだが、消費者やエネルギーを使用する企業にとってプラスのはずだ。ただし、原油安のプラス効果は経済全体に広く、薄く、そして浸透するのに時間がかかるのに対して、マイナス効果は一部の国や産業に集中的、かつ短期間で表れる。とりわけ、原油価格の急落はそうした傾向を浮き彫りにしている。

もっとも、価格が下落しているのは原油だけでなく、鉄や銅など他の多くの資源も同様だ。シェール革命やイランの石油禁輸解除といった供給サイドだけではなく、世界景気の減速、とりわけ中国景気の悪化という需要サイドにも原油安の原因がある。そして、中国景気の悪化がどの程度なのか不透明なことが、投資家の不安心理に拍車をかけている。

中国は先進国と比べて、経済のサービス化が遅れており、エネルギー効率が悪い。GDPのエネルギー原単位(1単位を生産するのに必要なエネルギー量)が先進国と比べて大きいため、原油安で最も恩恵を受ける経済の一つであるはずだ。しかし、今回は因果関係のベクトルが「原油価格→景気」ではなく、真逆の「景気→原油価格」であるため、その限りではないようだ。

原油安から生じる新たな問題とは?

そして、原油安から新たな問題が生じている。

一つは、社債市場における信用不安の台頭だ。大手格付け会社S&Pによれば、2015年は世界的な社債の格下げ件数が過去6年で最大だった。とりわけ、信用力の低い「投機的」格付けの債券、いわゆるジャンク債を発行して資金調達をしてきたシェール企業が打撃を受け、破たんが増加しているようだ。ジャンク債のなかでもエネルギー関連グループのパフォーマンス悪化が足元で目立ってきた。

さらに、産油国の政府系ファンド(ソブリン・ウェルス・ファンド、SWF)が石油収入の不足を埋めるために保有資産の換金売りを行っており、世界的な株安を増幅している可能性がある。それは中東のSWFにとどまらないかもしれない。原油の採算コストが低いノルウェーでも石油産業は危機的状況とされ、世界最大の同国SWFに対して財政補完の役割が期待されているようだ。

米国で稼働している原油リグ(生産プラットフォーム)は、2014年10月のピーク1600基から直近1月には515基まで減少している。一方で、同国の原油生産量は昨年のピークから4%程度しか減少していない。原油価格が下げ続けることはなく、どこかの価格水準で需給がバランスして底を打つはずだ。ただし、米国の原油生産の例が示唆するように、バランスへの到達には時間がかかるということかもしれない。

米国のシェールオイル掘削リグ

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。