がん教育のモデル授業は、家族にも好影響をもたらす

前編では東京都の墨田区立業平小学校が2015年12月、同区内では初となるがん教育のモデル授業「がんのことをもっと知ろう」を2回にわたって実施したことを伝えた。後編では、区内のがん患者減少やさらなるがん教育推進につなげていくため、墨田区が今後どのように展開していくのかを紹介する。

墨田区の全学校での実施が目標

今回のモデル授業は、墨田区が2014年に策定した「墨田区がん対策基本方針」の中で掲げた目標「がんに関する正しい知識を持つための健康教育・普及啓発活動の推進」に基づく。区が独自に設けた「がん教育部会」のメンバーが作成した教材や、がん患者の体験談などを通じ、同小学校の6年生はがんに関する理解を深めた。

がん教育は中学校での展開も予定しており、2月に錦糸中学校の3年生に対し、科学的視点を取り入れた中学生向けのがん教育モデル授業を実施する。墨田区 保健計画課の松本静さんも「来年度はモデル展開を広げていき、平成29年度には墨田区の全学校でがんに関する授業を実施するのが目標です」と意気込む。

教員もがんについて学ぶ

ただ、全学校での授業実施には、実際に教壇に立つ教員らのがんに対する知識や理解力が不可欠だ。そこで区は、がん教育を一定のレベルで行えるよう、教育委員会と連携して教員や養護教諭を対象とした研修を2015年の夏に実施。研修では小児がんや、がんの親を持つ子どもへの配慮などについても触れているようで、今夏の実施も視野に入れているという。

「万一、研修ができなかったとしても、教員同士の学習会・勉強会で取り上げてもらえればと思いますし、すでにそういう動きは出ています」。子どもたちががんについて「正しく」学べるよう、現場の人間も最善を尽くしている。

家族の行動変容を期待も、今後に課題

そして、「子どもたちを介し、その親御さんを変えていけることができれば」と、がん教育モデル授業の波及効果にも期待を寄せる。それは、「家族でがんについて話し合う時間が増える」「家族ががん検診を進んで受ける」といったことだ。家族のこれらの行動変容は、「墨田区がん対策基本方針」が定める基本目標「がんによる死亡者数を減らす」にもつながる。

子どもの保護者や家族への働きかけ実施の重要性を、区もしっかりと理解している。家族向けのがんに関する媒体作成や、PTAなどと連携した保護者向けのがん教育会開催を目指しているが、まだ実現には至っていない。「どちらも並行してやっていかないといけないですね」。がん教育の恩恵をより確かなものにするための今後の課題は、はっきりとしている。

がん教育の最終目標は何か

国民の2人に1人はがんになる時代だけに、各自治体は早期でのがん教育に力を入れる。例えば2015年2月には、京都府で今回の業平小学校同様、小学生を対象にしたがん教育授業を実施している。

がんを学ぶことで、子どもたちに何を知ってもらい、どう成長してもらいたいのかは、自治体や学校ごとに考え方が異なるだろう。墨田区は、がん教育のモデル授業の最終目標をどこに定めているのだろうか。松本さんに聞いてみたら、即座に明確な答えが返ってきた。

「『がんに対する正しい知識を身につける』『自分の生活習慣を改善させる』『命の大切さを知る』の3つだと考えます。この3つが、がん患者に対する誤った偏見の緩和にも寄与すると期待しています」。

※写真と本文は関係ありません