中国の中央銀行にあたる人民銀行(PBOC)が、人民元安の阻止に向けていよいよ本腰を入れ始めた。

中国は、国内市場、いわゆるオンショアにおいては、人民銀行が前日終値をもとに対米ドルでの人民元の基準値を決定し、日中の変動幅を基準値の上下2%以内に抑える管理相場制を採用している。これに対して、香港を含めた国外市場、いわゆるオフショアでは人民元が自由に取引されている。

人民銀行、今年に入ってから香港での人民元買い介入に踏み切る

人民銀行は昨年8月に人民元の対米ドル基準値の決定方式を変更するとともに、事実上の人民元切り下げを実施した。その後、11月ごろから人民元はジリジリと下落してきた。そして、今年に入ってからの人民元安は、人民銀行が基準値を大きく引き下げたことが引き金だった。先安感からオフショアで人民元が売り込まれ、オンショアとオフショアでの価格差を利用した投機も発生し、それが人民元安に拍車をかける事態となっていた。そして、上海株の急落も人民元の先安感を醸成するところとなった。

人民銀行は一昨年後半ごろから人民元安のスピードをコントロールするために、米ドル売り人民元買いの為替介入を続けてきた。ただ、それはオンショアに限定されていたようだ。今年に入ってからは、香港での人民元買い介入に踏み切った。とりわけ、12日の介入は大規模だったようだ。介入によって市場の人民元流通量が大幅に減少したため、翌日物HIBOR(銀行間取引金利)はそれまでの5%程度から一気に60%超まで上昇した。そのため、人民元を借りて売ることはほぼ不可能となった。

人民銀行がオンショアでの基準値をほぼ横ばいに据え置いていることもあって、人民元の急落にはいったん歯止めがかかった。

中国人民銀行ホームページ画面

打つ手を間違えて金融市場を混乱させるケースは今後も発生する可能性

このまま人民元安は止まるだろうか。人民元が急落した背景は、人民元が米ドルに連動してきたために、過去5年のドル高によって、米ドル以外の通貨に対してかなり高くなってしまったことだ。貿易ウェイトで加重平均した人民元の実効レートは昨年8月のピークから足元まで3%程度の下落にとどまっている。中国景気の低迷を前提とすれば、人民元の先安感は根強く残るのではないか。

人民銀行にしても、人民元の急落は困るが、秩序だった下落はウェルカムかもしれない。人民銀行はコントロールを行う手段は持っている。ただ、打つ手を間違えて金融市場を混乱させるケースは今後も発生するかもしれない。

昨年11月に人民元はIMF(国際通貨基金)のSDR(特別引出権)に組み込まれて、主要通貨の仲間入りを果たした。2つの条件のうち、取引規模は問題なかったが、取引の自由度には疑問の余地があった。それでも「GOサイン」が出された。人民元相場のコントロールは自由化に逆行する動きと言えるが、それでも金融市場の落ち着きのためには致し方ないということか。

中国は統制経済・管理相場から自由化を進める過渡期にある。そうしたなかで当局は試行錯誤を繰り返すのかもしれない。ただ、世界第二位の経済規模となった中国の「錯誤」は世界に甚大な影響を与えるということだろう。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。