村上春樹『職業としての小説家』はエッセイの枠を超えたビジネス書!?

 

『職業としての小説家』(村上春樹/スイッチ・パブリッシング)

 430万部を突破した、1987年の『ノルウェイの森』を機に、世界的に“ハルキスト”を有することとなった作家・村上春樹。上記の言葉は2015年9月に刊行した『職業としての小説家』の“あとがき”の一文だ。

 『職業としての小説家』は、文芸誌『MONKEY』で連載する“村上春樹私的講演録”に大幅な書き下ろし150枚を加えた、渾身の長編エッセイであり、「Amazon ランキング大賞 2015」の「文学・評論」部門において、ピース・又吉直樹『火花』に続き第2位となった一冊。読後の感想もすこぶるいいので、2015年に読み逃した人のために、改めて紹介していきたい。

 村上は1979年、海辺の街に帰省した<僕>と友人<鼠>を中心に、青春の一片を乾いた軽快なタッチで捉えたデビュー作『風の歌を聴け』で、佐々木基一ら選考委員5人全員から支持され「第22回 群像新人文学賞」を受賞。その後も、「芥川賞」ノミネート作品『1973年のピンボール』、80年代を舞台に新たな価値を求めて闇と光の交錯を鮮やかに描きあげた『ダンス・ダンス・ダンス』、家を出て小さな図書館の片隅で暮らすようになった「カフカ」と名乗る僕の物語『海辺のカフカ』など、短編、長編、エッセイとジャンル問わず多くの作品を発表してきた。

 2015年9月に刊行された『職業としての小説家』は、その村上が初めて本格的に、自身の小説、現場、支える文学、世界に対する考えをつづったエッセイとなる。芥川賞、ノーベル賞など、作家周辺を騒がせてきた“文学賞”をどう考えているのか。試行錯誤と悪戦苦闘を経て、なぜ世界へ向かう道を歩むことを決めたのか。<3.11>を経験した日本の問題点。そして、そもそも小説家を選んだ理由など、「第一回 小説家は寛容な人種なのか」から始まり、「第十二回 物語があるところ・河合隼雄先生の思い出」まで全十二章にわけ、思いのたけを味わい深いユーモアと共に、解き明かしていく。

 そんな『職業としての小説家』に対しての評価は高い。「文学は皮膚感覚だ。優れた作品に出合うと鳥肌が立つ。それは知性や理性ではなくフィジカルな感覚であり、まさに本書がそうである」(北海道新聞 どうしんWEB)、「どんな職業の人であれ、プロであるとはどういうことかを本書は伝えてくれる。プロには精神のタフさが必要で、それを支える肉体の鍛錬が必要である。このことは形を変えて何度も出てくるから、村上さんの心の声なのだろう」(読売新聞 朝刊)、「日本の文壇・文芸評論家への痛烈な批判、1978年4月の神宮球場で『小説が書けるかもしれない』という啓示を受けた瞬間の回想、オリジナルな表現者に必要な条件など、どれも従来になく詳しく描かれている。資料的価値も高い」(毎日新聞 論の周辺)など、各紙面が推薦している。

 しかし、推すのは新聞だけではない。多くの読書家が「村上さんの小説が好きではない人でも、小説や文学に関心がない人でも、本書には役立つヒントが豊富に含まれている」「文学賞に関する記述も大変興味深く面白く感じました」「中高校生の頃、仰ぎ見る存在であった人が、風当たりに耐え、こんなヴィジョンのもとに作品を構築し、そのためにあっちに住み、こっちに居を移したりしていたのかと、読みながらしばし、しみじみしてしまいました」「人称や文体の話、海外市場の話なども面白かったが、本人も好きだと言っている、小説を書くための『ジェネラルなシステム』についての話がいちばんノッて書いている感じがした」「どのような気持ちで小説を書いてきたのか、淡々と語っている。非常に読みやすいし、心に響いてくる。私も小説を書きたくなった。書けそうな気もしてきた」と絶賛している。

 ファン以外からも、「村上春樹さんの著書は数冊読んだくらいの自分にとって、そこまで興味を持って読み始めた訳ではなかった。が、良い意味で裏切られた」との声が上がる『職業としての小説家』。どういった仕事に就いているのかは抜きに、すべての大人にとって、エッセイの枠を超えたビジネス書なのかもしれない。

■『職業としての小説家』
著:村上春樹
価格:1,944円(税込)
発売日:2015年9月10日(木)
出版社:スイッチ・パブリッシング


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