なぜ揺さぶってしまうのか? 虐待は予防できる?

虐待死のニュースで時折指摘されることがある「乳幼児揺さぶられ症候群」。赤ちゃんが激しく揺さぶられることによって脳に障害をきたす疾患のことを指す。親たちはどのようなことがきっかけで、赤ちゃんを揺さぶってしまうのか。そしてどうしたら、被害を防ぐことができるのか。同疾患に詳しい国立成育医療研究センター研究所・社会医学研究部部長の藤原武男氏に聞いた。

赤ちゃんが「泣きやまない」ことが引き金に

「乳幼児揺さぶられ症候群」は、赤ちゃんが激しく揺さぶられることによって脳の周りの血管や神経が引きちぎられ、さまざまな障害が起こる疾患のこと。言語障害や失明、最悪の場合には死に至ることもある。

最近では、児童虐待の死亡事故を報じるニュースで耳にするケースも多くなっている。これらの事態を重く受け止め、厚生労働省は2015年から死亡事故事例の検証結果(子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について: 第11次報告)の調査項目に「乳幼児揺さぶられ症候群の有無」を追加した。

検証結果によれば、平成25年4月1日から平成26年3月31日までに発生した児童虐待による死亡事例(心中以外)のうち、最も多かった直接死因は「頭部外傷」。このうちの6割が「乳幼児揺さぶられ症候群」(疑い含む)だった。判明した加害動機のうち多くを占めたのは、赤ちゃんが「泣きやまないことにいらだったため」で、「実母が泣きやまない女児をあやそうと両手で持って揺さぶり、意識障害とけいれんで救急搬送されている」「実母が外出している間、実父が食事中泣きやまない女児にいらだち暴行を加えた」などのケースが報告されている。

イライラしたら赤ちゃんから離れても構わない

死亡事故に至らないまでも、赤ちゃんが泣きやまないことにイライラしてしまった親は少なくないのではないか。藤原氏によれば、イライラしたときに赤ちゃんを激しく揺さぶる衝動をコントロールするために必要なのは「泣き」についての知識なのだという。

「これまでの研究で、赤ちゃんにどのような関わり方をしても、生後1~2カ月頃には泣きのピークを迎えることがわかっている。そのときは何をやっても泣きやまない。1日に合計5時間以上泣くこともあり、それでも正常ということを知ってもらいたい」と話した。「抱っこをする」「授乳する」「おくるみでくるんであげる」「ビニールをくしゃくしゃさせた時に出る音を聞かせる」などを試した上で泣きやまないときには、「自分がイライラする前に、赤ちゃんをベビーベッドなど安全な場所に寝かせてその場を少しの間離れても構わない」とのことだ。

「泣き」の知識があれば被害は予防できる

しかし親たちがこのような知識を持っていることで、本当に虐待は予防できるのか。この点については、藤原氏が行った興味深い研究がある。調査は、千葉県鎌ヶ谷市で生後4カ月の子どもを持つ母親1,594名に対して実施したもの。2010年6月から2012年1月の間に市が開いた乳幼児健診に参加した人を対象とした。

市では、(1)妊娠8カ月のクラスで幼児の泣きの特徴と推奨される行動についてのDVDを見せる、(2)乳児期の家庭訪問の際、幼児の泣きについての情報を載せたパンフレットを配るという2つの施策を実施。藤原氏は、(1)も(2)も体験した母親、(1)(2)のいずれかを体験した母親、(1)も(2)も体験した母親の3グループにわけて分析を行った。

その結果、幼児の泣きの知識に関しては体験した施策の数が多い母親ほど定着が見られた。さらに、「泣きやまないときには赤ちゃんから離れる」という行動をとった回数も、同様に多くなったのだ。公的な施策が、虐待を防ぐための行動を実践するために効果を発揮していることがわかる。

この調査結果に加えて、藤原氏は「周囲が育児に関わることの大切さ」も指摘。「夫の協力も含め、さまざまな人が育児に関わることで日常生活のストレスは軽減される」と話してくれた。赤ちゃんの泣きの特徴や対処の仕方については、母親だけでなく周囲の理解も必要となってくるだろう。

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