政府の郵政民営化委員会は25日、「今後の郵政民営化の推進の在り方に関する郵政民営化委員会の所見」を公表した。

同所見では、今後の郵政民営化推進の在り方(金融二社)における業務等規制に対する考え方において、ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険の金融二社の限度額規制に対する考え方などについて見解を示した。

ゆうちょ銀行の限度額規制に対する考え方

同所見では、まず、ゆうちょ銀行の限度額については、(1)年金、給与等の振込の都度、限度額を超過するケースが発生していること、(2)退職金、相続資金、保険金等の振込先としての預金サービスを提供し難いこと、(3)投資信託運用等の投資のための資金やその満期・解約金等の一時的受け皿としての預金サービスを提供し難いこと等、特に、金融機関の店舗が少ない過疎地の高齢者に多大の不便をもたらしており、早急に規制を緩和する必要があるとの意見があると指摘。

他方、限度額規制の緩和は、ゆうちょ銀行の貯金残高を増加させ、経営上のリスクを高める懸念があるため、むしろ規模の縮小を図ることが先決であるとの観点から、規制緩和に慎重な意見があるとも指摘している。

また、過去の事例や暗黙の政府保証の存在を指摘して、他の金融機関等からの資金シフトを懸念する意見もある。

ゆうちょ銀行

郵政民営化委員会では、「限度額の在り方を議論する場合も、最も重視すべきは利用者利便の視点」とし、「限度額のある預金は、送金決済に制限を設けて、預金者に不便を強いる大きな弱点のあるサービスであり、民間金融機関が提供するサービスとして適切なものとはいえない」と強調。

「このような状況を放置しておくことは、将来的な顧客基盤の脆弱化につながりかねない」とし、「また、限度額が超過するたびに預金者に払い戻しを依頼することにかかる郵便局及びゆうちょ銀行直営店の事務負担の問題も無視できない」と指摘。

その上で、「限度額規制を緩和すれば、サービス面の弱点が改善され、こうした問題も起こりにくくなる」とした。

同委員会では、寄せられた意見を考慮すると、ゆうちょ銀行の限度額規制を緩和する方向としては、次の3つに大別できると考えられるとした。

  • (1)通常貯金を限度額管理対象から除外する方法(郵政民営化法第107条第1号に規定する政令で定める預金等とする)

  • (2)現行1,000万円の限度額(郵政民営化法第107条第1号イに規定する政令で定める額)を一定額まで引き上げる方法

  • (3)通常貯金を限度額管理対象から除外するとともに、定期性貯金の限度額(郵政民営化法第107条第1号イに規定する政令で定める額)を現行の1,000万円から一定額まで引き上げる方法

同委員会では、「限度額規制に関して起きている問題の多くは、ゆうちょ銀行が一時的な資金の受け皿となり得る預金サービスを提供し切れていないことに起因している」とし、「限度額超過の是正に伴う利用者の不便さや郵便局等の事務負担の軽減、資金の自由な流通の基礎となる送金決済機能の整備、投資信託販売等による貯蓄から投資への流れの促進等、様々な課題や社会的要請に対応していく必要性を考慮すると、(1)の通常貯金を限度額管理対象から除外する方法が、最も多くの人々のニーズに適う案であると考えられる」とした。

他方、旧郵便貯金時代から継続してゆうちょ銀行を利用している人々の中には、定期性貯金を中心に利用している人々も存在すると考えられるとし、通常貯金を限度額管理対象から除外しても、こうした人々のニーズを満たすことには貢献しない可能性があると指摘。

同委員会では、「そもそもゆうちょ銀行の提供する預金サービスをどのように利用するかは本来預金者の自由であるはず」として、多様なニーズがあることを踏まえれば、今回の規制緩和においては、(2)の限度額を引き上げる方向を採用することが現実的であると考えられるとした。

同委員会は、この場合の方法論として、今回が限度額規制における民営化後初の緩和であること、年金振込み等のたびに限度額を超過するといった問題の解消や高齢化が進む利用者の貯蓄機会の確保等の観点から、まずは引上げ額を300万円程度とすることが妥当であると考えると説明。

その上で、「他の金融機関等との間の競争関係やゆうちょ銀行の経営状況に与える影響等を見極め、特段の問題が生じないことが確認できれば、必ずしも株式処分のタイミングに捉われることなく、段階的に規制を緩和していくことが考えられる」とした。

また、その際には、「単純な限度額の引上げという方法に限らず、あるいはそれとともに、最も多くの人々のニーズに応えることを主眼に、通常貯金を限度額の管理対象から除外する案や通常貯金と定期性貯金の限度額を別個に設定する案も検討に値すると考える」としている。

かんぽ生命保険の限度額規制に対する考え方

同委員会は、かんぽ生命保険の限度額についても、「重視すべきは利用者利便の視点」とした。「合理的な理由がなく限度額が存在する商品が民間会社の提供するものとして不適当であることは、ゆうちょ銀行についてと同様」と強調。

「限度額を設定することに合理性があるとすれば、それはリスク管理の観点から説明できなければならず、本来、それは経営判断事項であって、自らデータ等に基づき合理的に決定すべきものである」とした。

かんぽ生命保険

また、かんぽ生命は、小口でシンプルな生命保険を、郵便局ネットワークを通じ家庭市場を中心に提供することを基本とし、職域における高額保障ニーズに対しては、他社商品を補完的に活用することにより対応している。「こうしたビジネスモデルは、上場後も基本的に変わらないとしていることから、かんぽ生命保険の限度額について検討する場合、少なくとも当面は、有診査保険への参入を前提とせずに、告知書扱いの生命保険を対象とすることが現実的であると考える」(同委員会)。

同委員会では、このように考えた場合、かんぽ生命保険の限度額については、「検討すべき論点はあまり多くなく、保障性を中心とする他の生命保険会社に及ぼす影響も限定的と考えられる」とし、「かんぽ生命保険の基本契約の限度額は、国営時代から通算すれば38年間(一定条件の下での改定を入れても29年間)変更されておらず、ゆうちょ銀行においてと同様、経営の自由度を高める方向で考える余地はあると考える」と強調。

かんぽ生命保険の現行の通計の仕組みでは、20歳以上55歳以下の青壮年層を対象に、加入後一定期間(4年)生存し、健康体であることが確認できた被保険者について、既契約分の保険金額を300万円まで限度額の計算に算入しないこととしている。

同委員会では、限度額規制を緩和する場合は、「現行1,000万円の基本契約の限度額を増加させるのではなく、この通計の仕組みの活用を図ることが考えられる」とし、「それにより、限度額の引上げが一部の既契約のみを対象とすることとなるため、営業面を含めた経営改善効果は限定的となるが、リスク量の増加を抑制することが可能となる」とした。

「将来的には、基本契約の限度額そのものの引上げや、高齢化に対応した通計対象年齢の拡大等、郵政民営化の進捗に応じて経営の自由度を高めていくべきことは当然であるが、今回が限度額規制の緩和の第一段階であることに鑑みれば、慎重な対応をとることも許容されよう」(同委員会)。

郵政民営化委員会では、以上のような考え方を踏まえ、かんぽ生命保険の限度額規制について、当面の具体案を考えると、基本契約の限度額そのものは変更せず、前述の通計の枠内で、加入から4年経過した契約について、基本契約の限度額の計算に算入しない金額の限度を、現行の300万円から、基本契約の保険金額の限度額と同額の1,000万円に引き上げることが考えられるとした。