奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)と電力中央研究所は12月21日、酸化物半導体「IGZO」を用いた薄膜トランジスタの極低電圧駆動と信頼性の大幅改善を達成したと発表した。

同成果はNAIST物質創成科学研究科情報機能素子科学研究室の石河泰明 准教授、藤井茉美助教らと、電力中央研究所の小野新平 主任研究員らの共同研究によるもので、12月18日に英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

IGZOは東京工業大学の細野秀雄 教授グループが開発した透明な酸化物半導体で、In(インジウム)、Ga(ガリウム)、Zn(亜鉛)、O(酸素)で構成されている。透明かつフレキシブルな次世代ディスプレイの研究開発では、駆動に用いられる薄膜トランジスタの活性層材料として注目されているが、実用展開に向けては環境負荷や電界に対する信頼性と、フレキシブル化を実現するための低温プロセスの導入、消費電力の削減が課題となっている。

薄膜トランジスタのディスプレイ応用イメージ図

今回の研究では、室温で液体状態であるイオン液体と、室温でも形成可能なIGZOの界面を用いて電気二重層を形成し、通常より多くの電子が利用できる状態で薄膜トランジスタを動作させた結果、一般的に高い信頼性を示す酸化シリコン絶縁膜を用いた素子の性能を大きく超え、駆動電圧が40%以下、劣化量が1/2以下という性能を達成した。

同研究グループは「同技術を用いることで、透明かつフレキシブルなディスプレイを長期間安定して動作させることが可能になる」としている。

IGZO薄膜トランジスタにイオン液体が形成する電気二重層を用いた高性能化のイメージ図。(a)薄膜トランジスタ上にイオン液体を滴下し、(b)のように電圧を印加することでIGZOとイオン液体界面に電気二重層が形成される(図中のS、D、Gはそれぞれソース電極、ドレイン電極、ゲート電極を示す)。これにより、通常より多くの電子を利用することが可能となり、低電圧でも素子が駆動し、電界ストレスによる閾値電圧シフトなどの劣化を抑制することができる。