日本原子力研究開発機構(JAEA)は12月18日、がん細胞に特異的に細胞死を引き起こす抗体の立体構造とその作用の「鍵」となる基本単位を、原子レベルで明らかにすることに成功したと発表した。

同成果は、原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター分子構造ダイナミクス研究グループ 玉田太郎 グループリーダーらの研究グループによるもので、12月17日付けの英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

ヒトなどの高等生物の細胞では、細胞表面に存在するタンパク質が出す信号が、細胞死「アポトーシス」を引き起こすと知られている。がん細胞のアポトーシスを引き起こす働きをする受容体タンパク質のひとつとして、「腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンド受容体(TRAIL-R2)」があるが、この信号はがん細胞においてのみ伝わることから、TRAIL-R2を標的とした抗がん剤の開発が行われている。そのうちのひとつが「KMTR2」と呼ばれる抗体で、この信号ががん細胞に伝わる。

今回の研究では、KMTR2のヒトTRAIL-R2の反応に関わる部分を抜き出して、2つのタンパク質が1:1で結合する複合体の結晶を作製。得られた結晶に大型放射光施設「SPring-8」の強力なX線を照射し、その三次元立体構造を決定した。さらに同研究グループは、結晶中の規則性に着目。1:1複合体は、隣の複合体とKMTR2軽鎖中のアスパラギン(Asn53)とアルギニン(Arg54)というアミノ酸がお互いを認識しあうことにより2量体を形成しており、この2:2複合体がヒトTRAIL-R2の会合構造の基本単位となって、がん細胞の細胞死を引き起こすことを明らかにした。

今回の研究で明らかになったKMTR2の作用メカニズムは、より高機能な抗体分子の創製に繋がる知見を含んでおり、効果の高い抗がん剤の開発に繋がることが期待されるという。

結晶中に見出したメカニズムの「鍵」となる基本単位。「KMTR2」の抗原認識を担う重鎖と軽鎖からなるFab領域とヒト受容体「TRAIL-R2」の細胞外に存在する領域の1:1複合体が、点線を境に向き合って2量体(2:2複合体構造)を形成

2:2複合体形成に重要な抗体間の認識。KMTR2軽鎖中のAsn53とArg54がお互いに認識しあっている