総務省は16日、携帯電話料金について議論する「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」の第5回の会合(最終会合)を開催した。同会合が示した携帯電話料金を下げるための方向性を受けて総務省が方策を決定する予定だが、その方策に関し各種報道で「携帯端末『実質0円』禁止」などと報道されていることについて、会合の参加者から、「早くも携帯ショップなどで"これから端末価格が高騰する"と駆け込みを煽るような動きが出ている。我々が示した方向性はあくまで、『段階的に携帯端末価格を適正化していく』というものであり、今回の提言は携帯端末の価格を数年かけて徐々に適正化するプロセスの始まりにすぎない」と報道に苦言を呈した場面もあった。

今回のタスクフォースは、安倍晋三首相が9月11日の経済財政諮問会議で、携帯電話料金引き下げ策の検討を高市早苗総務大臣に指示したことが立ち上げのきっかけとなったもの。第1回会合は10月19日に開かれ、「ユーザー間の行き過ぎた不公平性の是正」などが指摘された。第3回会合は非公開ヒアリング、第4回会合では、"販売奨励金"の規制で「独禁法」との関係が議論になるなどした。第5回となる今回の会合では、これまでの議論を踏まえた携帯電話料金引き下げ策の今後の方向性が示された。

今回の会合には、高市大臣、タスクフォース主査で明治大学法学部教授の新美育文氏、中央大学総合政策学部教授の平野晋氏、野村総合研究所上席コンサルタントの北俊一氏、立教大学名誉教授の舟田正之氏、弁護士の森亮二氏、全国地域婦人団体連絡協議会 事務局長の長田三紀氏らが参加した。

まずタスクフォース事務局から、第4回会合で示された各検討課題に関する、タスクフォースとしての方向性(案)が説明された。

「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」の第5回会合(最終会合)

検討課題(1) 利用者のニーズや利用実態を踏まえた料金体系

方向性(案)

  • (1)IoT時代の生活インフラであるスマートフォンのさらなる普及を図るため、対象年齢や機種を限定して提供されている5,000円以下のライトユーザー向けプランの価格帯も参考に、年齢や機種を限定せずライトユーザーも利用しやすいスマートフォンの料金プランを検討すべき

  • (2)高額な端末購入補助に伴う利用者間の不公平の是正のため、端末購入補助を受けないスマートフォンの長期利用者などの負担の軽減になるような料金プランなどの提供を検討すべき

  • (3)(1)(2)を実現する負担を軽減するための多様な料金プランなどの内容は事業者にゆだねるべきであるが、以下のようなさまざまな方策が考えられる。

(1)の例としては、「より少ないデータ通信容量プランの創設」「低廉な国内通話かけ放題プランと少ないデータ通信量プランの組合せの柔軟化」「低容量のデータ通信プランの低廉化」、また(2)の例としては、「端末購入補助がない代わりに低廉なプラン(SIMのみ契約など)」、「端末を買い換えない長期利用者に対する料金割引の提供」。

  • (4)事業者の提供する料金プランなどが利用者の利用実態に合致し、不公平の是正となるものであるかについて、総務省において、事業者に報告を求めて、事後的に検証すべき

検討課題(2) 端末価格からサービス・料金を中心とした競争への転換

方向性(案)

  • (1)スマートフォンを「実質0円」にするような高額な端末購入補助は著しく不公平であり、MVNOの参入を阻害するおそれがあるため、不公平を是正する方向で補助を適正化する一方、端末購入補助を受けない利用者の通信料金の負担の軽減に取り組むべき

  • (2)行き過ぎた端末購入補助の適正化については、例えば、MNPをして端末購入する人と新規契約・機種変更する人との間で著しい差があることや、料金プランによらずに一定額の端末購入補助となっていることなどを見直すことが考えられる

  • (3)発売から期間が経過した「型落ち端末」などについて、端末購入補助の適正化の取組みの対象とすることは、端末の流通に与える影響が大きいと考えられるため、その扱いについて配慮をすべき

  • (4)端末購入補助の見直しについては、一定のルールに沿った事業者の取組みを促す必要があることから、事業者間のカルテルや再販価格拘束を誘発しないよう留意しつつ、総務省において、ガイドラインの策定を検討すべき

  • (5)端末購入補助の見直しについて実効性を確保するためにも、総務省が事業者の取組みを検証できるよう、必要な措置を検討すべき

  • (6)利用者がニーズに合わせて通信サービスと端末を自由に組み合わせて利用できるようにするため、2年間の期間拘束契約の見直しやSIMロック解除の着実な実施などによる、利用者の囲い込み施策の見直しを引き続き促していくべき

  • (7)端末購入を条件とした通信サービスの料金割引や通信サービスを解約した際の端末に関する負担について、利用者が理解して契約できるよう、総務省において、ルールの整備などをすべき

検討課題(3) MVNOサービスの低廉化・多様化を通じた競争促進

方向性(案)

  • (1)接続料については、改正電気通信事業法に基づき、その算定方法などを定める省令・ガイドラインの整備を着実に進め、引き続き、適正性・透明性の向上を図るべき

  • (2)MVNOのサービスの多様化を可能とする加入者管理機能について、ガイドライン上「開放を促進すべき機能」と位置づけることによって、事業者間の協議を加速すべき

  • (3)MVNOと携帯電話事業者の顧客管理システムのオンライン提携について、早期の実現を促すべき

  • (4)MVNOのさらなる普及を図るためには、MVNO自身が、大手携帯電話事業者との差別化を図りつつ、より多くの利用者から選ばれるような戦略をとっていくことが望まれる

  • (5)利用者の選択肢をさらに拡大する観点から、行き過ぎた端末購入補助の適正化と相まって、中古の端末市場の発展が望まれる

高市大臣「速やかに政府としての対応方針を示す」

以上の方向性(案)の現状と論点が示された後、自由討議となった。

全国地域婦人団体連絡協議会の長田氏は、「さまざまな場で議論を指摘されてきたものが整理されているが、問題はユーザーのニーズに合った料金体系ができていないということで、どのぐらいの料金で提供していただけるのか、我々もみていく必要がある」と述べた。

野村総研の北氏は、「業界の不透明な販売があらためられるべきということはずっと議論されてきたが、なかなか業界により自主的には是正されてこなかった問題。その問題に対し、総務大臣が自ら会合に出席するといった中で、方向性を打ち出せたことはよかったのではないか」と話した。

その上で、「大きな方向性は示せたけれども、これに本当に実効性を持たせるためにやるべきことはいくらでもある」とし、「最終的には購入補助をやらないということを目指すが、すぐにというわけにはいかない」と述べた。

立教大学の舟田氏は、「型落ち端末の扱いが難しい。型落ちになる原因はメーカーが新機種を出しすぎて、それ以前のものを"陳腐化"させるといった戦略をとっているためで、ユーザーにとっては迷惑な話。行政として、メーカーのマーケティングにそのままのっかるわけにはいかず、(型落ち端末に対する奨励金をどうするかは)難しい問題だ」と指摘した。

中央大学の平野氏は、「首相の指示が議論のきっかけとなって、今回のとりまとめにいたった。ぜひ詳細を設計する上で生かしていただきたい」と述べた。

主査で明治大学の新美氏は、「事業者の皆さんが自身で公正なものは何かを提示していただくしかない。今回の方向性(案)をタスクフォースの『方向性』としたいがどうか」と賛成を求めると、野村総研の北氏が「一点話したいことがある」と発言。

北氏は、「端末『実質0円禁止』などの報道を受け、早くも携帯ショップなどで"これから端末価格が高騰する"と駆け込みを煽るような動きが出ている。我々が示した方向性はあくまで、『段階的に携帯端末価格を適正化していく』というものであり、今回の方向性は携帯端末の価格を数年かけて徐々に適正化するプロセスの始まりにすぎない」と、報道によるミスリードに苦言を呈した。

その後参加者で、「方向性(案)」をタスクフォースの『方向性』にすることで合意。

高市大臣は最後に、「今回のタスクフォース、第1回の会合は10月で、本日までの期間、大変タイトなスケジュールの中で、構成員の方々に真剣に議論してもらって本当に感謝している。本日とりまとめてもらった、1つはライトユーザー・長期ユーザーの負担軽減、それから端末販売の適正化ということ、またMVNOのサービスの多様化、こういった事柄について方向性を示していただいた」と総括。

高市大臣は「速やかに政府としての対応方針を示す」と話した

その上で、「さきほどから議論にも出ていたが、実効性が重要。方向性を示していただいてこれまでと同じというわけにはいかないので、総務省としては速やかに政府としての対応方針を示す」と早期の方針策定を示唆。

そして、「私どもの目的は生活インフラとしてのスマートフォンがさらに多くの人々に使ってもらいやすくなるということ、そして競争の質を変えていくということ。サービスや料金の面で、多様性があって分かりやすくていいな、そんな風に思ってもらってより多くの国民の皆様が携帯電話を使ってくださる、そのような姿を目指しながらしっかりとした方針策定に取り組んでいく」と抱負を述べ、タスクフォースを締めくくった。