保育士の資格なくても認可保育所で働ける?

厚生労働省はこのほど、保育士資格のない人でも認可保育所で保育に携わることができるよう、平成28年4月から基準を緩和する方針を固めた。児童の少ない朝夕の時間帯などに、子育て支援の研修を受けた人などが働けるというものだ。保育の質の低下につながるという批判もある今回の基準緩和について国に聞いた。

児童の少ない朝・夕の時間に対応

今回の措置は、認可保育所の保育士の数が最低でも1施設あたり「2人」を下回ってはならないという厚生労働省の省令を緩和するというもの。児童数が少ない時間帯には保育士の資格保有者が1人常駐した上で、もう1人は無資格者でも対応ができるとした。8時前まででは全定員数の21.7%、17時からの1時間では15.2%、18時からの1時間では1.1%と児童数が少なくなる(平成24年度地域児童福祉事業等調査により国が作成)ことから、朝・夕の時間帯において活用が可能となっている。

保育に携わることができるのは、「保育施設などで十分な業務経験を有する者」「子育て支援員研修を修了した者」「家庭的保育者」のいずれかの条件を満たした人だ。厚労省は保育の現状について、「保育士の確保が難しく、1日のうち保育士2名体制を順守した勤務シフト作成等の人事管理が困難な状況」と指摘。その上で、「園児の多い日中のコアタイムに保育士資格者を集中的に配置することが可能となり、保育所全体でみて保育の質の向上につながる」と基準緩和の意義を説明している。

保育の質の低下懸念する声も

平成28年度から実施される予定の対策ではあるが、厚労省は本格的な運用を前に「保育士の確保が特に難しい地域に限り」という条件付きで、今年度から基準緩和を認めている(平成27年3月19日各都道府県等宛て厚生労働省保育課事務連絡)。実施状況を踏まえて、今後の運用のあり方を検討するためだ。

国が提示した特例的な措置を、自治体はどのように受け止めたのか。厚労省が8月24日~9月4日に都道府県、指定都市、中核市に対して行ったアンケート調査によれば、89の自治体のうち13%にあたる12の自治体が、認可保育所で無資格者が働くことを認めていた。一方で、71%にあたる63の自治体は認めていなかった。さらに、今回の措置を来年度以降も延長すべきか尋ねたところ、「延長すべき」(27%)、「延長すべきでない」(29%)という意見が2つに割れている。

無資格者が働くことを認めた自治体は「保育士の確保が難しく、現在、勤務している保育士の負担が過剰になるのを防ぐため」と保育士不足の深刻な状況を理由にあげている。一方で、認めなかった自治体からは「朝夕および延長保育の時間帯は、けが等の発生が多いことから、最低基準に基づく保育士の配置は必要であると判断した」など保育の質の低下に言及する意見が28件寄せられた。

問題点や課題についても数々の意見が述べられている。「朝・夕の時間帯は、児童数は少ないが0歳児から5歳児までの合同保育となるため、けがや事故などが起きやすく、日中の時間帯よりもむしろ配慮が必要と考えている」「対応可能な時間帯および保育士に代わる者の保育能力について、施設長が認めるとしているところだが、自治体としてその適否を判断する方法が明確ではない」といった内容だ。

「無資格の人が働くのは怖い」「給料上げるのが先」

今回のニュースはTwitter上で大きな話題となった。保育士と名乗る男性は、「命を預かるお仕事なので無資格の人が働くのは怖いですし私らの努力がなんの意味もなさなくなるのは悲しいです」とコメント。「人が足りなければ給料上げたり待遇良くするのがセオリーだと思う」といった声も相次いだ。

今回の基準緩和では、朝・夕の時間帯に関わらず、保育士が研修中で不在の場合も対応が可能としている。さらにすべての時間帯において、幼稚園教諭や小学校教諭でも認可保育所で働けるとした。これについては、検討会の構成員や各団体から「現実的には、保育士側が嫌がるので小学校教諭は難しいのではないか」「単独でなく、複数の職員で保育する場合に限るなど、慎重な対応が必要ではないか」という見解が述べられている。一方で「多様な人材の活用は、むしろ保育の質を高めることにつながるのではないか」という前向きな意見もあった。

国はこれらの意見を踏まえ、「実施自治体・事業者の事例等を十分把握した上で、保育の質への影響を継続的に検証していく」としている。今回の試みが保育の現場にどのような結果を生むのか。今後の動きが注目される。