ひとり親受け入れの長野県。狙いと展望は

長野県は平成28年度から、都市部におけるひとり親家庭の移住促進策を実施する。貧困率が54.6%(平成24年)にのぼるひとり親家庭。移住は支援につながるのか、また、県にはどのようなメリットがあるのか。狙いと展望を担当者に聞いた。

人手不足の解消に期待

地方創生の総合戦略の中に組み込まれている同施策。なぜ県は、このような取り組みを始めようと思ったのか。その理由として担当者は「人口増への期待」と「人手不足の解消」をあげた。「ひとり親家庭の方に移住してもらえれば、1世帯につき親と子の分だけ人口が増えることになる」と指摘。その上で「子どもがいるということは、親が"現役世代"という利点もある」とした。

県内では主に「介護職」など特定の職種で深刻な人手不足が起きている。特に過疎地では少子高齢化が進み、介護サービスの需要が高まっているものの、それを担う若い世代がいないというのが現状だ。県では、「地域内でまかないきれない人材の担い手として移住を期待している」という。

しかしなぜ、ひとり親を対象にした施策としているのか。これについては、ひとり親に非正規雇用の労働者が多いことを理由にあげている。親が正社員で持ち家のある家庭は移住のハードルが高い。一方で、特に母子家庭では、親の労働形態の52.1%が非正規雇用となっている(平成23年度全国母子世帯等調査)。担当者は、「長野県は都市部に比べると生活コストが安い。県内で安定した仕事を紹介できれば、移住のハードルも下がるのではないか」と話した。

「子どもにとってプラスになる」移住を

さらに施策については、県側だけでなく、ひとり親家庭にとってもメリットの多い移住支援につなげようと、具体的な内容を検討している。重視しているのは、「子どもにとってプラスとなる移住」になること。そして、転居にかかる費用面の支援だ。背景には、県内のひとり親家庭(児童扶養手当を受給)を対象に実施した実態調査の結果がある(2015年8月実施)。調査の中で「転居してもよい条件」として、「子どもにとってプラスになる」「転居費用を補助してもらえるなら」という2つの項目が上位に入ったというのだ。

この点について担当者は、「自然豊かな場所で子育てをしたいというニーズに応えられる」とアピール。さらに、教育環境についても先進的な事例を紹介してくれた。一部の地域では、県内の進学塾と提携し、子どもたちがタブレットを使って遠隔教育を受けられる取り組みを実施。質の高い教育を受けられる環境づくりを進めていきたいとしている。

また、「日々の暮らしはなんとかなるが、子どもの進学費用を確保するのが難しいというひとり親家庭は多い。そんな中で、転居費用を工面するのは大変なことだと思う」と現状を把握。その上で検討事項とはしながらも、就業先となる人手不足の企業に転居費用を援助してもらえるようお願いすることも考えているという。

当面は住居や就職支援など、既存の移住施策を利用しながら、ひとり親家庭専用の移住相談窓口も開設したいとしている同県。「全国的に離婚率は上がっていて、地方でもひとり親は珍しくない」として、市町村と連携しながら全県でサポートをしていきたいと語ってくれた。具体的な取り組みとしてはまだまだこれからだが、ひとり親家庭の実態を把握した上でのきめ細かい支援が期待できそうだ。

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