音楽家の坂本龍一が全26曲を提供したことでも話題の山田洋次監督作『母と暮せば』(12月12日公開)。そのエンドロールでは、2人のある思いが込められた合唱曲が流れる。

初めてタッグを組んだ山田洋次監督(左)と坂本龍一

同作は、戦後間もない長崎を舞台に描かれるファンタジー。3年前に原爆で亡くなったはずの息子が、助産師と暮らす母のもとに突然現れるという物語で、楽しかった思い出話や残していった恋人の話をして過ごす2人の日々が描かれる。母・伸子役を吉永小百合、息子・浩二役を二宮和也、浩二の恋人・町子役を黒木華が演じる。

作家・井上ひさしさんが広島を舞台に描いた『父と暮せば』。山田監督は、生前の井上さんがそれと対になる作品として「長崎を舞台につくりたい」と語っていたことを、井上さんの三女・麻矢さんを通じて知り、終戦70年となる今年にその思いをささげて映画化に挑んだ。

「主役は吉永小百合、音楽は坂本龍一」を念頭に掲げた山田監督は、まずは吉永の承諾を得た上で、2人で坂本にアプローチする。坂本は「この二人に何かを頼まれて断れる日本人がいるでしょうか」と当時を振り返り、「核のない世界を望んでいるぼくとしては、これはやるしかありません」と気合十分。山田監督にとって「長年の夢」だった、坂本との初タッグはこうして実現した。

感動の物語を締めくくるエンドロール曲は、戦争で命を落とした人々への鎮魂歌。山田監督の「この映画が現代にもつながっているという意味で今の長崎の人に歌ってもらいたい」という思いのもと、200人の長崎市民が合唱に参加した。3週間前から練習を重ねての本番録音。立ち会った山田監督は、歌声に耳を傾けながら涙を流したという。

「みなさんの歌声に技術を超えた力があった」と山田監督。その表現は決して大げさではないようで、制作スタッフも「つらい体験を長い時間をかけ乗り越えた長崎市民の思いが詰まった力強い歌声」と語り、「エンドロールが終わるまで席を立たず、ぜひ、彼らの歌声に耳を」と呼びかけている。