8月24日、上海株の急落、いわゆる「チャイナショック」によって金融市場は大きく動揺した。その後は中国株が落ち着きを取り戻したこともあって、小康状態が続いている。為替市場でも、8月24日に一時116円近辺まで下落したドルは反発し、その後は120円を挟んだ比較的狭いレンジでの動きに終始している。

ドル円のオプションから算出される2か月のインプライド・ボラティリティ(予想変動率)は10月に入って大きく低下している。このまま年末まで為替相場は安穏が続くのだろうか。そうならない可能性には注意が必要だ。とりわけ、金融市場でリスク回避が強まるケースに備える必要があるかもしれない。その場合、為替市場では円高が進行するかもしれない。

米国では、年内の利上げの可能性が大きく後退

米国では、年内の利上げの可能性が大きく後退しているようだ。政策金利(FFレート)先物に基づけば、金融市場が織り込む利上げの確率は10月のFOMC(連邦公開市場委員会)で1割未満、12月のFOMCでも3割程度に過ぎない。来年3月までには5割以上の確率で利上げが想定されている。しかし、今後の状況次第で「来年も利上げは無理」、あるいは「金融緩和の可能性あり」との見方が広がれば、果たして株式市場はそれを好感するだろうか。むしろ、下げ相場がきつくなる可能性がありそうだ。

さらに、米国では11月上旬にデットシーリング(債務上限)引き上げの事実上の期限が到来する。また、12月11日には現行の暫定予算が失効する。財政にまつわるドタバタは恒例行事になった感はあるものの、政府機関の閉鎖、あるいは国債デフォルト(債務不履行)との観測が浮上すれば、投資家も心穏やかではいられないだろう。

金融市場には世界的な景気減速に対する政策期待

世界的な景気減速に対する政策期待が金融市場にはあるようだ。中国では、10月26日から開催される「五中全会(党中央委員会全体会議)」で2016-20年の経済5か年計画が策定される。それに絡んで景気対策が打ち出されるかもしれない。一方で、景気対策が出てこず、また向こう5年間の成長見通し(目標)が現行7%から大きく引き下げられるようであれば、金融市場の波乱要因となるかもしれない。

日銀やECB(欧州中銀)に対する追加緩和期待も根強い。日銀は、10月30日に公表する「経済と物価情勢の展望(展望レポート)」で物価見通しの下方修正を迫られているようだ。ユーロ圏では消費者物価が前年比マイナスに沈んでいる。もっとも、日銀にしても、ECBにしても、金融市場の期待とは裏腹に、追加緩和を真剣に検討している素振(そぶ)りはない。

経験的には、10月末から12月末までにドル高円安になることが多かった。2005年から2014年まで10回のうち7回でドル高円安だった。2009年から2014年では6回のうち5回でドル高円安だった。とくに、2012年からは3回連続でドル高円安となり、いずれも7円前後の大幅なドルの上昇だった。2012年は安倍政権の誕生、2013年は米株の連日高値更新、2014年は黒田日銀の量的緩和第二弾、いわゆるハロウィーン緩和が大きな材料だった。

もっとも、今年は、4年連続での大幅なドル高円安に賭けるには分が悪そうだ。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。