温暖化で急激な環境変化が起きつつある北極圏の諸問題に、科学技術力を生かし積極的に関わる姿勢を明確にした初の「北極政策」が、16日開かれた政府の総合海洋政策本部(本部長・安倍首相)で決まった。

広い範囲にわたって北極海を覆っている海氷の面積は、2005年以来、縮小し続けている。北極海の夏季の海氷面積は過去35年間で約3分の2程度まで減少し、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)も既に2005年2月に公表した第1作業部会報告書で、「北極海の晩夏における海氷が、21世紀後半までにほぼ完全に消滅するとの予測もある」と警告を発している。

日本は、2007年に海洋研究開発機構と宇宙航空研究開発機構が、船舶や衛星搭載の観測機器による結果データから海氷面積がさらに縮小したことを公表するなど、北極の環境変化の観測に積極的な役割を果たしてきている。

16日決定された「北極政策」は、北極における環境変化が北極だけでなく地球規模で政治的、経済的、社会的な影響を及ぼす可能性が大きいことを指摘し、日本が「北極に潜在する可能性と、環境変化への脆弱(ぜいじゃく)性が適切に認識され、持続的な発展が確保されるよう先見性を持って積極的に主導力を発揮することが求められる」としている。

具体的な取り組みとしては「北極圏国における観測・研究拠点を戦略的に設置し、国際的な取り組みを主導し、国際的な議論の場で活躍できる若手研究者の養成を図る」ことを挙げている。

地球環境分野以外の具体的な取り組みについては、海氷面積の縮小で北極海航路が確立するとアジア欧州間の航行距離がスエズ運河経由に比べ4割短縮される可能性を示し、「新たなルール作りに関する国際的議論に積極的に参加し、北極海における航行の安全を確保する上で有用な技術の開発が重要」としている。

また、航路の開通、資源開発などさまざまな可能性の広がりが国家間の新たな摩擦の原因となる恐れがあることも指摘し、「関係国の動向に十分な注意を払うとともに、北極圏国などとの協力を推進していく必要がある」と安全保障上の課題も示した。

北極圏に関しては、1996年にカナダ、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、ロシア、スウェーデン、米国の北極圏8カ国からなる北極評議会(AC)がつくられている。北極圏に関わる持続可能な開発、環境保護などを、先住民社会とともに議論するのが目的の組織だ。日本は2013年にオブザーバー資格を得て、欧州、アジアの非北極圏諸国12カ国の一つとして、閣僚会議などでの議長裁量による発言、文書提出を認められている。

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