米Salesforceは9月15日、米サンフランシスコで年次カンファレンス「Dreamforce 2015」を開幕した。Dreamforceは数年前よりOracleの「Oracle Open World」を抜いて、IT業界最大のイベントとなっている。今年はユーザー、パートナーなど16万人が集まり、メイン会場のモスコーニセンターを中心にさまざまな会場で開かれる1600以上ものセッションや基調講演に参加する。

Salesforce.com 共同創業者兼CEO Marc Benioff氏

16日、基調講演に登場した共同創業者兼CEOのMarc Benioff氏は会期中に発表した新製品を中心に、拡大を続けるSalesforceの新しいクラウド戦略について語った。

冒頭にBenioff氏はSalesforceの革新を、「新しい技術モデル」(クラウド)、「新しいビジネスモデル」(サブスクリプション)と説明し、2016年には66億2000万ドルを売り上げる世界第4位のソフトウェア企業になるとの見通しを述べた。

Benioff氏が同様に強調する成果が「新しい慈善モデル」だ。

同社は創業時から「1-1-1モデル」として従業員の1%の時間、株式の1%、製品の1%を社会貢献に費やすという方針を貫いてきた。今年もイベント会場で参加者に子供向けの本の寄贈を呼びかけている。

慈善事業に関連した取り組みでは、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)、乳がんの検査とケアを改善するAthena Projectと共同で、Salesforceを利用した研究を行っていることに触れた。データの活用により患者一人一人の状態や背景を考慮したケアが可能になり、さらには検査についてもリスクベースのアプローチにより精度を高めることを目指す。

ここでもクラウドベースのSalesforceのアプリケーションが大きく役立っているという。UCSFのLaura Esserman博士は「一口にガンといっても、1つの病気ではなくさまざまな病気が組み合わさっている」と述べ、データの分析により各患者に合わせた治療を実現していきたいとした。

自身も父をガンで亡くし、母はガンにかかりながらも克服したというBenioff氏は、「バイオ技術だけでなく、情報技術もガン治療などの医療分野の進展を加速できる」と述べ、技術が人々の健康に貢献できると主張した。

「UCSFらが取り組むデータの活用やカスタマイズは企業でも活用できる」とBenioff氏はいう。そして、会期中に発表した「IoT Cloud」を紹介した。

IoT分野の未来は?

Benioff氏はIoTを「クラウド」「モバイル」「ソーシャル」「データサイエンス」に次ぐ5番目のレボリューションと位置付ける。さらには、スマートウォッチ、車などすべてのモノ(Things)の背後には、顧客がいることから「顧客のインターネット(Internet of Customers)」とも称する。

一方で、IoT/Internet of Custmerには「問題がある」と現状を指摘する。顧客と企業にあるギャップだ。顧客とのやりとりを通じてさまざまなデータが生成されているが、企業が分析に利用するのはその1%にすぎず、77%の顧客が企業とエンゲージしていない、とギャップを表現する。

SalesforceのIoT Cloudは、同社の最新プラットフォーム技術「Thunder」を土台とする。Thunderそのものは、Apache Cassandra、Apache Spark、Apache Storm、Apache Kafkaなどのオープンソースのデータ技術を活用したデータ処理エンジンで、マッシブなスケールとリアルタイムを実現する。

Marc Benioff氏ともう一人の共同創業者、Parker Harris氏。昨年発表したUI/コンポーネント開発「Lightning」の"Lightning Man"

IoT Cloudは企業と顧客との間にあるギャップをどのように埋めるのか――Salesforceの共同創業者、Parker Harris氏が企業が取るべき方策を解説した。

それによると、「データのキャプチャ」から「IoT Cloudを利用したリアルタイムでのルールの適用」「Marketing CloudなどSalesforceのアプリとの接続によるエンゲージ」の3ステップが重要だという。

Harris氏は合わせて、データのキャプチャで米Microsoftが最初の顧客となることも発表した。Microsoftの「Microsoft Azure」をデータパイプライン、データインフラとして利用することでAzureのデータを自動的にSalesforceに送り、イベントがトリガーされるという。

例として、顧客による「Office 365」へのサインアップをイベントとしてキャプチャし、その顧客がモバイルアプリをインストールしていない場合はアプリダウンロードをするように促すメールを自動的に送るルールを適用する、というデモを披露した。

SMB向けプロダクトの発表も

このほか、IoT Cloudを利用してCisco Systemsのルーターなどのネットワーク製品のイベントを通知し、問題を突き止めて技術者を送り、解決を行うという様子もデモで紹介した。

CiscoのChuck Robbins CEOは、2020年に500億~750億台のデバイスが接続されると言われているなか、「洞察を得ることが重要」と強調した。「洞察を利用してCiscoの顧客に何ができるのか、そこにバリューがある」とRobbins氏。Ciscoは接続部分で重要な役割を果たし、顧客がネットワークから洞察を得られるようにしていくという。

データのキャプチャ、ルール適用によるトリガー、そしてSalesforceのアプリと連携できる「IoT Cloud」

CiscoのCEO、Chuck Robbins氏

新製品の発表となるDreamforceではこのほか、買収したRelate IQの技術をベースにしたインテリジェントな営業支援アプリとしてSMB向けの「SalesforceIQ for Small Business」とエンタープライズ向けの「SalesforceIQ for Sales Cloud」なども発表された。

基調講演では、CiscoのCEO、Western UnionのCEO、Hikmet Ersek氏が対談したほか、UberのCEO、Travis Kalanick氏、MicrosoftのCEO、Satya Nadela氏も別枠で登場した。17日にはYouTube CEOのSusan Wojcicki氏や女優で実業家のJessica Albaらが登場予定。楽天の三木谷浩史代表取締役も来場していたようで、Benioff氏の顔の広さがうかがえた。