インテルの長友佑都は日本時間の8月28日時点で、移籍騒動の渦中にいる

移籍か、残留か。去就が何度も報じられた長友佑都は、インテル所属としてワールドカップ予選を戦うハリルジャパンに招集された。今後も予断を許さない状況が続くなかで、日本代表をけん引してきたダイナモはよりストイックさを貫く覚悟を抱いて帰国する。

何度も報じられては消えた今夏の移籍話

いくつのチームが移籍先として浮かんでは消えていっただろうか。ヨーロッパの各リーグがオフに入った6月以降、ことあるごとに長友のインテル退団が取りざたされてきた。

新天地として最初に名前が上がったのは、DF内田篤人が所属するブンデスリーガのシャルケ。そこへウェスト・ブロムウィッチ、ストーク、ノリッジのプレミアリーグ勢が続いた。

いずれも本格的な交渉に至らなかったなかで、トルコの名門ガラタサライへの移籍が秒読み段階となったのは7月下旬。元チームメイトで、当時から公私ともに仲のよかったオランダ代表MFヴェスレイ・スナイデルが長友の獲得を推薦したという。

長友本人もガラタサライ行きを決意したとされる。しかし、インテルが獲得を望んだ元ブラジル代表MFフェリペ・メロがガラタサライに残留したことで、一転して交渉は白紙となる。

8月に入るとセリエAのジェノア、サンプドリアの名前も飛び交った。特に前者は元インテル監督として長友を指導したこともある、ジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督が直接交渉に出馬している。

電話越しに受けた熱いラブコールに長友の心も大きく傾いたとされるが、決定に至らないままセリエAは開幕。現地時間27日の時点で、長友はインテルの一員として新シーズンに臨んでいる。

はばかることなく口にしたインテルへの愛

長友とインテルの契約は来年6月末まで残っている。それでも、ここまで移籍報道が駆け巡った理由は、インテルが今夏の長友放出を望んでいるからに他ならない。

リーグのレギュレーションで、インテルはトップチームの人数を25人にまで減らす作業に追われていた。その一貫で契約を残す長友を放出すれば、移籍金も入ってくるからだ。

インテルの思惑を裏づけるように、イタリアのメディアでロベルト・マンチーニ監督のこんなコメントが報じられたこともあった。

「長友は売ることができるだろう」。

FC東京からチェゼーナを経て、インテルに加入したのが2011年1月。副キャプテンを任されるほど信頼を寄せられたセリエAの名門クラブへ、長友は深い愛着心を抱いてきた。

「僕としては、もちろんインテルに残りたい気持ちがある。インテルでしっかりとタイトルを取りたい」。

移籍報道が飛び交い始めた6月。ハリルジャパンに初めて招集され、帰国した長友はインテルへの熱い思いをはばかることなく明かす一方で、サッカー選手の宿命とも言える移籍を覚悟した言葉も残している。

「これは僕だけの意思では決められないこと。どんな状況になっても、どこにいっても輝くための努力はしていきます」。

不本意なシーズンでも貫いた代表への思い

蜜月関係にあったはずの長友とインテルが、ここまで一変してしまったのはなぜなのか。インテルで5年目を迎えた昨シーズン。長友は実に4度も故障で戦列を離れている。

昨年10月の左ふくらはぎに始まり、同11月には右肩を脱臼。日本代表として臨んだ今年1月のアジアカップで右太ももに肉離れを起こし、完治しないまま出場した直後のリーグ戦で再発させた。

170cm、68kgのサイズでセリエAの弱肉強食の世界を生き抜いてきた長友にとって、ハードワークは生命線となる。ある意味で、故障が避けられない宿命を背負っているといっていい。チームのために奮闘した代償として、昨シーズンはわずか14試合の出場に終わった。

一方で昨年11月に急きょ就任し、低迷するチームの再建を託されたマンチーニ監督としては、計算が立つ選手を中心に据えたい。9月で29歳となる長友に対して、故障がちな点も踏まえて「ピークが過ぎた」と判断しても不思議ではない。

「こんな厳しいシーズンを送ったことはなかった。けがを繰り返して苦しいシーズンだったけど、その分、いろいろな意味で成長できたと思っている」。

苦難のシーズンを振り返った長友は、こう言葉を紡いでいる。

「代表のことは常に頭のなかにあった」。

故障禍を成長への糧と受け止める心の強さ

ヴァイッド・ハリルホジッチ監督の初陣となった3月の国際Aマッチシリーズ。長友は代表メンバーに招集されながら、右太ももの肉離れを理由に辞退している。

一刻も早く新チームの輪のなかに入り、ワールドカップが開催されるロシアの地を目指したいという思いが強かったのだろう。

故障も癒え、シーズンのラスト4試合で戦列に復帰。満を持してハリルジャパンへの合流を果たした6月シリーズで、長友はこんな言葉を残している。

「日の丸を背負う誇りと情熱は常にもっている。年齢は関係ないと思っているし、ロシア大会へ向けて成長していきたい。ただ、先のことばかりを考えるのではなく、いまやるべきことをやらないと道はつながっていかない」。

6月シリーズはイラク代表との国際親善試合こそ先発フル出場しながら、シンガポール代表とのワールドカップ・アジア2次予選では左臀部(でんぶ)に張りを訴えて急きょリザーブに回った。

またもや繰り返された故障の連鎖。胸中に募らせた悔しさは察するに余りあるが、それでも長友は努めて前を向いた。

「プロになってからは順調すぎていたので。こういう苦労をしないと、選手としても人間としても大きくなれないのかなと思っています」。

ストイックさをとことん貫く信念と覚悟

9月に行われるカンボジア、アフガニスタン両代表とのワールドカップ・アジア2次予選に臨む代表メンバーが8月27日に発表され、長友も名前を連ねた。

ハリルホジッチ監督は記者会見の席で、長友についてこう言及している。

「クラブを替えたいと言っているようだが、まだ実現できていない。ただ、ビッグクラブでトップ選手としてプレーしてきたので経験はある。フィジカル的にもトップだ」。

イタリアのメディアはここにきて、長友のインテル残留と2年間の契約延長の可能性があると報じている。もっとも、何が起こるかわからないのがサッカーの世界。日々変わる状況に一喜一憂することなく、長友は歩むべき道を見つめている。

「僕も若くないし、いつサッカー人生が終わってもおかしくない。だから、後悔はしたくない。どれだけストイックさを貫けるか。そこの信念というか、覚悟が変わった部分。これまでは自分のなかに甘さがあった。自分のなかにある隙に気づけと、神様に言われたと思っている」。

ヨーロッパの移籍市場は日本時間9月2日朝に閉じる。日本滞在中に大きな動きがあるかもしれないが、長友はすべてを受け入れる用意を整え、モードを日本代表のそれに切り替えて週明けに日本に降り立つ。

筆者プロフィール: 藤江直人(ふじえ なおと)

日本代表やJリーグなどのサッカーをメインとして、各種スポーツを鋭意取材中のフリーランスのノンフィクションライター。1964年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒。スポーツ新聞記者時代は日本リーグ時代からカバーしたサッカーをはじめ、バルセロナ、アトランタの両夏季五輪、米ニューヨーク駐在員としてMLBを中心とするアメリカスポーツを幅広く取材。スポーツ雑誌編集などを経て2007年に独立し、現在に至る。Twitterのアカウントは「@GammoGooGoo」。