すばる望遠鏡は8月26日(現地時間)、同望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラHyper Suprime-Cam(HSC)を用いて、塵に覆われた銀河を新たに48個発見し、それらの統計学的性質を明らかにしたと発表した。

同成果は 愛媛大学、英プリンストン大学、国立天文台などの研究者からなる国際研究チームによるもので、2015年10月25日に発行される天文学誌「日本天文学会 欧文研究報告 (PASJ) すばる特集号」に掲載される予定。

近年の研究により、ほぼすべての銀河の中心部には太陽の10万倍から10億倍の質量を持つ「超巨大ブラックホール」が存在し、その質量や銀河の質量と強い相関を示すことがわかり、銀河とその中心にある超巨大ブラックホールがお互いに影響を及ぼしながら成長する「共進化」が起きていることが示唆された。共進化を理解することは、銀河進化の全貌を解明するために必要不可欠であるとされている。

今回の研究では、「DOG」と呼ばれる塵に覆われた銀河に着目した。「DOG」は、赤外線で明るいという特徴を持ち、特に赤外線で明るいDOGに存在するブラックホールは急成長しているような「成長ブラックホール」であるとされている。また、DOGの多くは銀河の星生成活動が最も活発だった80~100億年前の宇宙に集中的に存在していたことで知られることから、赤外線で明るいDOGおよびその中心のブラックホールは両者が急成長しているような「共進化途上期」の段階にあると期待される。しかし、DOGは可視光で非常に暗い上に空間個数密度も低いため、可視光線における従来の探査では多数のDOGを発見してその統計学的性質を明らかにすることが困難とされていた。

HSCは、世界最高性能の超広視野カメラで、現在、すばる望遠鏡ではHSCを使った「すばる戦略枠観測プログラム」が進行している。同研究ではこの戦略枠観測で得られた初期データを用いてDOGの探査を進め、アメリカ航空宇宙局(NASA)の赤外線天文衛星「ワイズ」とヨーロッパ南天天文台の広域近赤外線探査計画「バイキング」で得られたデータを併用することで、「赤外線が可視光線の約1000倍以上の強さのエネルギーを放射している天体」をDOGとして選出し、新たに48個のDOGを発見することに成功した。

選出されたDOGの赤外線光度は太陽の10兆倍以上と推定され、DOGが極めて明るい天体種族であることが判明。また、選出されたDOGの個数密度を1立法ギガパーセクあたり約300個と決定することができた。DOGの明るさの波長依存性や個数密度の光度依存性などを踏まえると、これらのDOGの中心部に急成長をとげつつある巨大ブラックホールが潜んでいると考えられるという。

今後、同研究グループは、X線などの多波長データを併用することで、DOGやその中心に存在するブラックホールの性質をより詳細に調べていくとしている。

同研究で見つかったDOGの一部の可視光線(左:HSC)、近赤外線(中央:バイキング)、中間赤外線 (右:ワイズ)画像。各画像の視野は20秒角(1秒角は1度の 3600 分の1)。DOGは可視光線で暗い一方で中間赤外線で明るく輝いていることがわかる。

今回新たに発見されたDOGの個数密度(1立方ギガパーセクあたりの個数)を赤外線光度の関数として示した図。1ギガパーセクは約3×1025m。図の右下 (明るくて個数が少ない)の★印が今回の研究で新たに見つかったDOGに対応している。今回見つかったDOG は、(1)太陽光度の10兆倍以上の明るさをもつこと、(2)個数密度は1立方ギガパーセクあたり約300個であることがわかった。