米AppleのMVNO(仮想移動体通信サービス事業者)参入の噂が出ている。日本でも多くのMVNOが出現したこともあり認知度が高まりつつある昨今だが、同社では以前よりMVNO形態での事業参入の噂がたびたび出ている。ライバルのGoogleが「Google Fi」の発表や、最近のApple自身の動きもあり、再びその動向に注目が集まっている。

同件はBusiness Insiderが関係者の話として8月3日(米国時間)に報じている。MVNOは既存の携帯キャリアの持つ無線通信ネットワークを借りて携帯電話サービスを提供する事業者で、低価格サービスを売り物にしたサービス事業者から、特定端末の提供に際して通信サービスを付与することを目的としたものまで、ターゲットとなるユーザーに応じてさまざまなビジネス形態が存在する。

Business Insiderによれば、Appleが計画しているのは音声からテキスト(SMS)、データ通信まで、従来まで各国の携帯キャリアが提供していたサービスをAppleが代行して行うもので、おそらくはiPhoneユーザーが主なターゲットとなる。展開先は米国と欧州を見込んでおり、サービス提供にあたって米国キャリアとの提携で秘密のトライアルを行っているほか、同サービスの欧州展開のために複数キャリアとの交渉を行っているという。ただしローンチ時期や実際にサービスが開始されるのかも含めて不明であり、テスト運用のみで終わってしまう可能性もある。

Appleが特定キャリアに依存せず、サービスメニューのシンプル化や一本化を図ろうとしている兆候はいくつかある。

例えば昨年2014年末に提供が開始された新型iPadでは「Apple SIM」というApple独自のSIMカードが採用され、従来まで携帯キャリアより提供されていたSIMに適時入れ替えることなく、サービスメニュー上でキャリアを選択するだけでApple SIMを通して当該キャリアへの接続が可能になるなど、利用が簡便になっている(ただし特定キャリア選択後は切り替えができないケースも報告されている)。

Apple日本語サイトで紹介されているApple SIM。iPadの一部機種の対応だが、日本人も海外渡航時にその恩恵が受けられる

Apple SIMそのものは後に単体提供も行われている。このほか、英Financial Timesの報道でAppleとSamsungが端末組み込み型SIM (eSIM)の利用に興味を持っているという話も出ており、iPhoneやiPadの販売に際してユーザーのキャリア選択の自由度を高める動きが顕在化している。既存の携帯キャリア経由の端末販売や1~2年の契約縛りといったビジネス慣習は継続する一方で、Apple自身がSIMロックフリー端末とともにMVNO形式でのサービス提供も行うといったことは十分に考えられるだろう。

ただし、MVNOのサービスもそれほど容易ではなく、実際に採算レベルに乗せるには相応の工夫が必要だとみられる。低価格路線で一部MVNOが成功を収める一方で、残りはビジネス終了や吸収合併による自然消滅に向かうなど、生き残りが難しいという側面もある。Business Insiderも指摘しているが、自身のコンテンツと結びつけた独自サービスを展開していたDisneyやESPNはMVNOから撤退しており、特にDisneyに関しては本家米国よりもむしろ日本でのビジネスが(携帯キャリアを変更して)生き残ってしまうなど、サービス展開の難しさをうかがわせる。

他方でGoogleは「Fi」のサービスを今春からスタートさせているなど、MVNOも強力なプラットフォーマーや端末ベンダーを中心とした新しい世代のものへと突入しつつある印象がある。

Fi自体はまだトライアルサービスの段階だが、1GBのデータプランであればわずか月額30ドルで携帯電話番号を維持でき、さらに携帯キャリアを意識することなく世界120カ国以上でサービスが同一料金で利用可能など、利便性は非常に高いとみられる。仮にAppleがMVNO参入を計画していたとして、どのようなプランを持っているかは不明だが、究極的にはGoogle Fiのような地域やキャリアへの依存を減らした方式を目指している可能性は高いだろう。