イエレン議長、「最初の利上げを含め個々の利上げを重要視すべきではない」

7月15日、半期に一度の議会証言で、米FRB(連邦準備制度理事会)のイエレン議長は、原油安を背景とした設備投資の低調やドル高による輸出の抑制などの悪影響を指摘しつつ、「先行きをみれば、労働市場や景気全般が一段と改善するのに好ましい状況にある」と述べた。見通しの不透明要因として、ギリシャや中国の情勢を具体的に挙げたものの、「しかし、海外経済が予想以上の速いペースで回復する可能性がある」と楽観的なトーンで続けた。

最初の利上げのタイミングに関しては、「会合ごとに判断する」としたうえで、「経済情勢が我々の予想通りに展開するならば、年内のどこかの時点で利上げを行い、金融政策の正常化を開始するのが適切だ」と従来の見解を繰り返した。

そして、「重要なのは将来的な政策金利の軌道全体であって、最初の利上げを含め個々の利上げを重要視すべきではない」と強調した。

質疑応答では、「長く待ちすぎると、利上げのペースを速めざるをえなくなる可能性がある」、「早めに開始する利点は、その後の利上げが緩やかになる可能性があるということだ」とも議長は述べた。

議長が伝えたかったのは、近々利上げする可能性もあるが、市場は過剰反応しないで欲しいということだろう。

米FRB(連邦準備制度理事会)のイエレン議長(出典 : FRBホームページ)

景気が回復基調を強めていることが、9月の利上げ観測が高まっている背景

年内に開催されるFOMC(連邦公開市場委員会)は、9月、10月、12月の残り3回だ。9月と12月は、議長の記者会見や経済見通しの公表が予定されており、金融政策変更の可能性は10月より高いと市場で考えられている(上記の通り、FRBはいつの会合でも可能性はあるとのスタンスだが)。

また、12月はクリスマス休暇もあって市場の流動性が低下し、株や債券の価格変動が大きくなる可能性がある。そのため、市場を動揺させたくないFRBは12月を回避するとの見方もある。「負のクリスマス・プレゼント」は避けたいということではないか。

そして、何よりも景気が回復基調を強めていることが、9月の利上げ観測が高まっている背景だろう。7月29日に公表されたFOMC声明文は、冒頭の景況判断がやや上方された以外は大きな変更はなかった。ただし、利上げを開始するための労働市場の条件として、「さらに幾分かの改善」が必要とされた。6月の声明文では「さらなる改善」が必要とのことだった。「幾分か」の単語が付け加えられたことで、労働市場に関する限り利上げまでのハードルは低くなったとみることができそうだ。

7月上旬に実施された調査によると、70余人のエコノミストのうち約7割が9月の利上げを予想していた。さすがに前のめりすぎるようにみえる。セントルイス連銀のブラード総裁は、7月中旬のインタビューで「9月に利上げに踏み切る確率は五割をやや上回る」と答えている。

一方で、政策金利であるFFレートの先物によれば、足もとで市場が織り込む9月の利上げ確率は4割程度だ。どうやら、ほぼ五分五分というのが現実に近いように思われる。もっとも、9月16-17日のFOMCまでまだ6週間以上ある。その間に、7月分と8月分の雇用統計を含めて多くの経済指標が発表される。それらの結果次第で利上げの確率が上下するのは言うまでもない。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。2015年7月31日にWEBセミナー「マーケットリサーチ・レーダー:8月の投資戦略の探求」を開催する。詳細はこちら