ギリシャがユーロ圏から離脱する、いわゆる「GREXIT」の可能性が高まっているらしい。そこでユーロ圏の礎となるEMU(経済通貨同盟)について、改めて考えてみたい。

EMU(経済通貨同盟)には2つの大きな目的

そもそもEMUには、2つの大きな目的があった。

一つは、経済的目的だ。統一通貨を導入することで、参加国間で両替に関連する様々なコストを削減できる。そして、関税を廃止し、ルールを共通化することで、両替以外のビジネスコストも削減できる。その結果、経済を活性化させ、ユーロ圏外との競争力を向上させることができる。

もう一つは、政治的目的だ。EMUをさらに進めて、財政政策や政治を一元化することで、欧州大陸で古来より繰り広げられてきた戦争や紛争に別れを告げ、恒久平和を手に入れようというものだ。

EMUといえば、経済面に焦点が絞られがちだ。しかし、むしろ恒久平和という崇高な目的が先にあって、それを実現するための手段としての側面があると考えるべきだろう。

そもそも経済的にみれば、EMUは構造的欠陥を抱えている。各国の経済格差や景気循環の位相の違いに対して、機動的な経済政策が発動できないからだ。金融政策は一元化され、各国ごとにオーダーメードすることはできない。通貨が統一されたため、為替相場による調整機能もない。そして、財政政策についても、各国に裁量余地はあるものの、財政の健全運営のために様々な制約が課されている。

EMUは、構造的欠陥を抱えつつも、時間をかけて統合が深化することで、各国経済の平準化が期待された。EMUのスタートから15年経過したが、まだまだ時間が足りないのだろうか。米FRBの元理事によれば、南北戦争後に各州の通貨がドルに統一された際、各州経済の格差是正に寄与したのが、主に労働力の移動だったという。現在の欧州大陸では、言語面でも、文化面でも、労働力の移動に対する障害がまだまだ大きいということか。

EMUの構造的欠陥はスタート前から認識、ゴーサインが出たのは恒久平和の理想から

EMUの構造的欠陥については、スタート前から十分に認識されていたはずだ。それでも、ゴーサインが出たのは、恒久平和を理想とする各国政治家の強いコミットメントがあったからではないか。

EMUは1999年に11か国でスタートした。創設メンバーにギリシャはいなかった。財政規律といった参加基準を満たしていなかったからだ。ギリシャは2年遅れて、EMUへの参加を許された。それもかなり「甘い」判定だったようだ。当時、「裏口入学」との誹りも聞こえてきた。

さて、EMU加盟国が19か国に増えた今、そのギリシャが「史上初」の離脱の瀬戸際に立たされている。いかに政治家が強くコミットしても、上述の構造的欠陥は克服できないということか。それとも、15年を経過して各国で政権交代があり、政治家のコミットメントが希薄化してきたということだろうか。その答えが出るのはまだ何年も先かもしれない。

もっとも、これまでも数々の危機を乗り越えてきたEMUが、今回も危機をバネにさらに統合を深化させていくというシナリオも描けそうだ。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。