3年後にはロボットが接客を行うことが当たり前の世界になっている――。このように語るのは、リクルートライフスタイル ネットビジネス本部 クライアントソリューションユニット リアルマーケティング開発1グループでAirウェイトプロデューサーを務める渡瀬 丈弘氏だ。

先週、感情を持つロボット「Pepper」の一般販売が開始され、わずか1分で当初販売予定数の1000台を売り切った。Pepperは、家庭で利用できるロボット、コミュニケーションを取れる家族のような存在として開発されているが、その一方で企業の導入も進んでいる。ネスレ日本がすでに1000台の導入を決めておりみずほ銀行でも採用が決定している。

実証実験で注目を集めるPepper

さらには、特定業界別にアプリケーションやサポート体制を構築している「Pepper for Biz」を秋より提供するほか、7月1日からはアルバイト派遣も始まる

前述の渡瀬氏が所属するリクルートライフスタイルでも、早くからPepperに着目。2月に一般販売に先駆けて行われた開発者向け販売時に数台を購入し、さまざまな検証を続けてきた。渡瀬氏は「Airウェイト」という待ち時間解消サービスのプロダクト開発を務めている人物で、Pepperが登場する前からさまざまな業種・業態向けにサービス展開を行ってきた。

「プロダクトをリリースする前から『俺のフレンチ』さんなどと共同で実証実験を行い、15店舗、延べ1万人のお客様に『Airウェイト』を利用していただきました。もともとホットペッパーのチームで、飲食店などの業務改善としてAirウェイトの提供を始めましたが、その後は病院やホテルなど、ほかの業態でも採用が進んでいます」(渡瀬氏)

Airウェイトは待ち時間解消サービスとして、飲食店の行列解消を目的に開発された。中には「並ぶのも楽しみの一つ」と思う人もいるかもしれないが、客が待ち時間を有効に使えるように、整理券の発券やQRコード読み込みによるメール通知など、その場にいなくても入店の順番待ちが可能になっている。

Airウェイトの利用画面。シンプルなUIで発見までの操作が完結できる

もちろん、客の満足度向上だけがこのプロダクトの狙いではない。"行列待ち"は、人気店の証である一方で、さまざまな弊害を生む。夏場には熱中症対策で水を配る必要があったり、行列で公共の歩道を専有することで、近隣店舗からの苦情などにつながったりするケースもある。こうした問題の対策としてもAirウェイトは有効な解決策と言える。

また、店頭対応だけでなく、Web予約のバックエンドソリューションとしても提供しており、ビックカメラの予約受付なども同プロダクトを活用しているそうだ。

「ほかに導入が進んでいるところは病院です。個人経営のお医者様に導入していただいているのですが、例えば病院では待合室で待っている間に、ほかの患者さんから病気がうつるリスクがあります。そうした課題への対処策として、Airウェイトを利用していただいているようです」(渡瀬氏)

リアル脱出ゲームの受付を行うPepper

リクルートライフスタイルでは、PepperとAirウェイトをどのように活用しているのか、まずは、実証実験の様子を動画でご覧いただきたい。

上の画像のように、これまでWeb UIでやりとりしてきた内容を、すべてPepperとの会話で完結させている。最後の整理券の発券こそ、レシートプリンタの接続インタフェースであるBluetoothをPepperが搭載していないため、iPad経由の接続となっているが、概ねの操作はPepperで行えている。

Pepperを活用した理由について、渡瀬氏は「会話で終われるところがポイント」と話す。Pepperは目新しいデバイスとして、"客寄せパンダ"的な立ち位置に注目が集まるが、渡瀬氏はそちらよりも会話に注目しているという。

リクルートライフスタイル ネットビジネス本部 クライアントソリューションユニット リアルマーケティング開発1グループ Airウェイトプロデューサー 渡瀬 丈弘氏

「確かに目が行きがちな、アイキャッチ的な要素もありますが、それは動機付けであり、それ以上の広がりが見えるのがPepperなんです。iPadだけだと、アプリUIで機械的な操作に終始してしまいますが、Pepperは会話、コミュニケーションという場から世界が広がるんです。そのコミュニケーションを見ることで、他の人も立ち止まり、さらに活気付いていくという動線で考えています」(渡瀬氏)

また、渡瀬氏によると「ビッグデータ」にも活路を見出している。これは、Pepperの開発元であるソフトバンクロボティクスの吉田氏も語っていたことだが、これまで定量的に測ることが難しかった待ち時間のデータを店舗ごとに蓄積できるため、待ち時間が長期化してしまっている店舗と早い店舗の差を見出しやすくなる。これはPepperに限らずAirウェイトというプロダクト自体のメリットになるが、Pepper自体でも今回の実証実験を通して、新たに改善につなげていくポイントがある。

「Pepperにはソフトバンクさんが用意した辞書やAI技術がありますが、私達はAirウェイトアプリの中に、独自の辞書と応対するプログラムを組み込んでいます。今回は初めての実証実験なので、私たちが頭で考えた単語しか使えていません。そのために単語の量が圧倒的に足りない。だから、今回のコミュニケーションを生かして、次につなげていきたいと思っています」(渡瀬氏)

「こうした実績を積み重ねることでほかのプレイヤーに先んじてロボットによる接客対応の知見を蓄積したい」と渡瀬氏。その先には、冒頭のコメント「3年後にはロボットが接客を行うことが当たり前の世界になっている」という時代を見据えているわけだ。

もちろん、ロボットの普及にはプログラミングのしやすさなどが課題となっているが、アプリ制作を担当したニアの代表取締役 丸山 弘氏に話を伺ったところ、「Pythonを昔から使っている人間にとってはやりやすい。GUIによる実装もできるため、そう複雑にはならない」としていた。

ボックスをつなげていくだけで動作の遷移を決められるGUIを採用したプログラミング画面

Pepperに対応したAirウェイトをどのように広げるかについて、言及を避けたものの、こうした実証実験は「(今回のリアル脱出ゲームなどの)アミューズメント施設などの同業他社さんからの引き合いは多い」としていた。実証実験を超えての実導入には、Pepper自体の導入コストなども問題となる。現時点で「Pepperアプリのストアに公開するか、Pepperを当社から貸し出すかなど、詳細は何も決まっていない」(広報部)という。

今回は胸のディスプレイにはAirウェイトのロゴを表示するだけだったが、今後はこのディスプレイでも操作できるようにするか検討するという。ただ、Pepperとのコミュニケーションが一つの付加価値となっているため、「大きく変えなくてもいいのではないか」と渡瀬氏は話していた

今回の取材で1時間ほどPepperを見ていたが、渡瀬氏が話すようなコミュニケーションによる接客喚起はまだまだ道半ばという印象を受けた。もちろん、Pepperという目新しさが、中国人観光客などに好評で、「Hello!」「ニーハオ!」と、多く声をかけてもらってた。ただ、本来の目的は「いかにして店舗に注目を集め、なおかつ接客業務をスムーズにこなせるか」だ。Pepperの開発者向けモデルということもあり、CPUが一般販売モデルよりも劣るほか、システムバージョンも古いもの。そのため、致し方ない部分もある。

今後、今回のナレッジを生かして語彙、辞書の拡充を図り、法人のPepper導入企業が増えてきた段階でAirウェイトアプリを提供し、更さらなるスパイラルアップが果たせるように軌道に乗せることができれば、「3年後のロボット普及」時に、先んじて接客アプリの第一人者として君臨できる可能性はあるだろう。