2014年に最多安打のタイトルを獲得し、22歳にして早くもリーグを代表する選手に成長した山田哲人。大阪の強豪校・履正社で1年秋にレギュラーを獲得した「いい選手」が、ドラフト候補となり、プロでの活躍を予期させる「すごい選手」へと転換した日に迫る。

印象が薄かった下級生時代

ここ10年ほど、大阪の高校野球は大阪桐蔭と履正社の2強時代が続いている。山田はその履正社で1年夏からベンチ入りし、秋には二塁を守り2ケタの背番号ながら実質的にはレギュラーを獲得。「いい選手」であったことは間違いない。

同じ年にプチブレークした高校の先輩・T-岡田をもじってT-山田と呼ばれたこともあった

大阪ベスト4で敗れた2年夏には3番を打ち、23打数8安打。数字も「いい選手」であったことを物語っている。スコアブックで振り返ると、筆者はこの夏に履正社戦を2試合観戦。山田のヒットも好守も走塁でのスピードもしっかり見ていた……はずだった。

しかし、不思議と印象は薄い。ポジションが二塁手から遊撃手になった秋もやはり見たし、山田はそれなりの活躍をしていた……はずだ。それでも、筆者の中では「いい選手」の枠を出なかった。

年が明けると、雑誌『野球小僧』の誌面で安倍昌彦さんが山田を強く推すコメントを見た。「そこまで……? 」と、正直、疑問を感じたものだった。悪いところはないが、筆者の中では「東京の大学へ進みそれなりに活躍する」。その時点でそれ以上のイメージが広がらなかった。一言で言うなら、当時の山田は印象が薄かったのだ。

3年春からの変身

山田の同期にPL学園の吉川大幾(現巨人)がいた。吉川は山田同様の3拍子をそろえたうえ、「ここぞ」という場面で打つイメージがあった。守りや走塁でのチョンボも含め、試合を見ていると何かと目がいく選手だった。さらに本人も早くから「プロ志望」を口にし、体中から負けん気やガッツも立ち上っており、この点でも山田とは対照的。筆者だけでなく、見る者の多くの目は自然と山田より吉川へと向いていた。

ところが3年春になり、山田への筆者の見方が劇的に変わった。大阪大会で山田はこれまで通り、打って、守って、走った……が、中身が変わったのだ。試合のポイントでの活躍が格段に増えた。そうなると、プレーする姿からも自信、貫禄が伝わってくるようになったのだ。打率.435でチームの大阪大会優勝、近畿大会準優勝にも大きく貢献し、右肩上がりのまま夏を迎えた。

そして山田は打ちまくった。スカウトがそろった大阪大会の初戦を満塁本塁打でスタートすると、8試合を戦った大阪大会では実に29打数12安打13打点。さらに、同校として13年ぶりの夏となった甲子園では、山田哲人の魅力を余すところなく発揮した。

山田の運命を変えた「あの日」

2試合を戦い6打数4安打(2四球)。初戦の天理戦で重盗からのホームスチールでスピードと走塁センスを見せると、投手直撃の当たりでは打球の強さもアピール。敗れた聖光学院戦では左中間への一発も放ち、強肩を披露した守りも含め、もはやどこからどう見てもドラフト上位候補の動きを見せ、最後の夏を締めくくった。

2010年のドラフトで、抽選を2回外したヤクルトから1位指名を受けた。結果的にヤクルトは大きな「宝」を手にした

何がどうなって「いい選手」が「ドラフト候補のすごい選手」へランクアップされたのか。2年秋から3年春までの数カ月に何があったのか。夏を終えた山田に聞いてみた。すると、「『あの日』から変わったんです」と山田から明快な答えが返ってきた。

それは山田にとっての2年秋。2009年10月29日に行われたドラフト会議のことだった。花巻東の菊池雄星が話題だったドラフトの中継映像を見た山田は、「突然、来年はここで名前を呼ばれたい! って強烈に思ったんです」。

それまで関心の薄かったプロ野球の世界が突然、目指すべき場所となると「それまでは嫌々だった自主練習でも自分からバットを振ったり、トレーニングをしたりするようになったんです」と山田は語る。

ドラフト中継を見たことで「スイッチ」が入り、それまで素質でプレーしていた男に欲が生まれた。冬を越すと、スイングスピードが高校の先輩であるT-岡田(現オリックス)の高校時を上回る154キロを計測するまでにアップ。心・技・体がそろった結果の3年春以降の爆発、ドラフト1位指名でのプロ入りでもあったというわけだ。

プレッシャーや厳しいマークに負けず、今季も好成績を残す山田。3割、30本、30盗塁も目指してほしい

プロ2年目に1軍デビュー、3年目に大きく経験を積んで、4年目となる2014年の最多安打(193安打)と、順調すぎるステップを踏んでわずか4年でリーグを代表する選手に成長した。その姿を見ていると、筆者は時折苦い気分にさせられる。2年秋まで過小評価していた見る目の甘さに……。自らへの戒めを忘れないためにも、この先も山田には長く活躍を続けてほしい。

週刊野球太郎

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