藻類には、陸上の植物に比べてはるかに効率よく燃料を産出する株があることから、バイオ燃料に活かすための研究が進められてきた。この度、藻類がつくり出す炭化水素スクアレンを、ガソリンやジェット燃料に変換するための新手法が、東北大学大学院工学研究科の冨重圭一(とみしげ けいいち)教授、中川善直(なかがわ よしなお)准教授、筑波大学生命環境系の渡辺秀夫(わたなべ ひでお)研究員らのグループにより発見された。

新たな手法は、高分子構造を持つ炭化水素スクアレンを、触媒を用いて分解し、小さな分子構造の炭化水素を得るためのもので、触媒には、活性金属として独自の方法で分散したルテニウム微粒子を使う。この触媒を用いて、240℃、60気圧の水素でスクアラン(スクアレンの水素化物)を水素化分解すると、図のように、スクアラン分子中の分岐と分岐の中間位置が切断されて分岐炭化水素のみが得られた。

分岐炭化水素は、保存安定性、低凝固点、オクタン価(ノッキングを起こしにくい性質の値)などの点で、ガソリンやジェット燃料に望ましい成分だという。また、この反応では、毒性のある芳香族は全く生成されず、触媒は4回再使用しても性能の劣化が見られなかった。

図.スクアラン水素化分解の切断位置と、得られる分岐炭化水素の種類
C14-C16はジェット燃料に適する。C5-C10はガソリンとして利用可能成分。反応時間の調節により生成物の炭素数は変化する。

なお、今回の研究は、東北大学、筑波大学、仙台市が連携した「東北復興次世代エネルギー研究開発プロジェクト」の一部として行われた。津波で大きな被害を受けた仙台市の下水処理場を利用し、生活排水で培養した藻類からバイオ燃料を効率的に生産するという目標に向けた取り組みのひとつである。近年、深海サメの肝油から採れるスクアランが化粧品の成分に使われているが、下水から採取されるスクアランの新たな用途が広がっていくかもしれない。

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