2010年に俳優引退を公表していた根津甚八が、東出昌大主演の映画『GONIN サーガ』(9月26日公開)で、本作のために一度限りの復活を果たすことが、このほど明らかになった。

『GONIN サーガ』に出演する根津甚八

「自分自身が志すような演技者であることが、困難になった」ことを理由に俳優業を引退した根津だったが、石井隆監督自ら、根津の自宅を訪れ、「どうしても手伝ってほしい、根津さんでなければ…」と説得を受け、「できるかできないか脚本を読んで決めてほしい」と脚本を渡されたという。

本をじっくり読むうちに、「これなら、今の自分にできる」という気持ちが湧いてきたという根津。「今までの石井監督へ感謝の気持ちもあり、素直な気持ちで、今一度、自分自身を試してみようと思った」と語る。撮影が始まってからは、「久しぶりの撮影現場の空気に気持ちが高揚して、自分はこの仕事が心底好きなんだとあらためて感じた」という。

根津の撮影がすべて終わったあとには、若手役者陣が車まで追いかけ、根津を見送った。根津は「みんなと握手をして、車が見えなくなるまでずっと手を振って見送ってくれたことが忘れられない。そして、完成された作品を見て、素晴らしい役者たちに恵まれた映画になったと心から、思えた」とその時の気持ちを振り返る。

根津が演じたのは、汚職で警察をクビになった元刑事・氷頭。19年前の事件で、妻と娘を五誠会に殺され、勇人(東出)と大輔(桐谷健太)の父親、久松茂(鶴見辰吾)と大越康正(永島敏行)に復讐を果たすが、ヒットマン・京谷(ビートたけし)の銃弾に倒れる。それから19年後。銃弾を受けながらも生死の境をさまよい、植物状態のまま現在に至る。

主演の東出は、病院での共演シーンを挙げ、はう格好で勇人(東出)たちをにらむ元刑事・氷頭(根津)に向けて、「現場で声を荒らげて怒鳴ったりした事のない石井監督が『氷頭さん顔上げて』と叫ぶように演出をした」ことが印象深かったという。「ご病気で麻痺の残る根津さんに叫ぶ監督の声は、自分の身も引きちぎる思いと共に叫んだ声なのだと瞬間に理解しました」と、強い絆と情熱で結ばれた映画人たちのやりとりに目を見張った。

桐谷は、「役者って本当に最高だと、あらためて思わせてくれた根津さんに心から感謝」を述べ、麻美役の土屋アンナは「今回の作品での彼の演技は誰もが鳥肌を立ててしまうくらい感動するのではないかと思います」と、その熱演をたたえた。森澤役の柄本佑は「撮影が 進んでいくうちにどんどん若々しく、みずみずしくお顔もどこか端正になられていく根津さんの表情を見て役者…いや、それを通り越して人 間ってすげぇなと実感しました」と語り、誠司を演じた安藤政信は、「石井監督と根津さんの2人の間の深い愛を石井作品ファンとして現場で見ることができたこと、そして全てをさらけ出す根津さんの役者としての姿に心をつかまれました」とコメントした。

オファーを繰り返してきたという石井監督は、「駄目だったらこの物語は僕の中で葬ろう」とまで思っていたという。しかし、役を引き受けた根津。そして、現場で彼の演技を目にした石井監督は「すごい! やはり根津甚八はどこまでも役者・根津甚八だ、僕は現場でみんなからなんと思われようとも、役者と監督という形で向き合わなければ失礼だ、と心に決めて現場に臨んだ。根津さん、もう1回! もっと粘って! もっと! もっと!と、"根津甚八の今"を撮るのが恩返しと思って現場で叫んでいた」と撮影を振り返る。

今回の出演を終えた根津は、「天が再び機会を与えてくれるものなら、仕事を続けたかった思いももちろんある。でも、監督や共演者を始め、スタッフ全員の支えがあって、やり遂げたことで、未練を捨てて、終止符を打てたと思うし、そう思える機会を与えてくれた方々に深く感謝している」と語った。


(C)2015『GONIN サーガ』製作委員会