東京大学大学院工学系研究科の古澤明教授と不破麻理亜大学院生(博士課程1年)らの研究チームは、アインシュタインが提唱した「ピンホールで回折した単一光子は空間的に広がるが、異なる2点で同時に観測されない『量子(光子)の非局所性』」を厳密に検証することに成功したと発表した。

同研究は豪グリフィス大学のハワード・ワイズマン教授との共同研究による成果で、文部科学省・先端融合領域イノベーション創出拠点の形成プログラムなどの支援のもとに行われた。

光子の非局所性は、1909年にアインシュタインが量子力学の不可解な例として提唱して以来、「物理学の100年論争」を巻き起こしてきた。しかし、これまで用いられてきた光子を粒子として検出する方法では、検出効率が低い上に、光子の有無しか観測できなかったため、厳密に検証することは原理的に不可能だった。

今回、研究チームは、光子の電磁波としての側面に着目し、電磁波を高効率に測定するホモダイン測定技術を構築し、電磁波の複数の属性を観測して、より多くの情報を得ることを可能にした。その結果、光子の非局所性を高精度かつ厳密に検証することに成功したという。

今回は、生成した光子をピンホールで回折させる代わりに、入射する光の一部を反射し、一部を透過する、部分反射ミラーで2つの光路に分けることで、光子が通過できる経路数を無限から2つへと減らした。非局所性の検証において本質的な「光子の空間的な広がり」を残しつつ、実験装置を簡略化することに成功。そして、部分反射ミラーの反射光と透過光の両方をホモダイン測定し、「部分反射ミラーの片側(透過光)のホモダイン測定の観測属性(位相)を変更すると、観測属性と得られた結果(振幅の符号)に応じてもう片側(反射光)の量子状態に変化が生じる」ことを確認したとする。つまり「空間的に離れた2地点の片方の観測属性と結果に応じた影響がもう片方に及んで、それに対応する量子状態が現れた」ことを意味する。

この現象こそ、アインシュタインによって100年前に提唱された光子1つがもたらす非局所性そのものであり、研究チームは、非局所性の存在を示す十分な根拠を得るために、電磁波の6つの異なる属性でその効果を検証したほか、これを定量的に評価するEPR steering不等式の破れを検証し、光子の非局所性の厳密な検証に成功したとしている。

この結果を受けて、研究チームでは、今回の成果は基礎科学の大きな成果であるばかりでなく、光子の粒子性と波動性の両方を用いた新方式の超高速量子暗号や超高効率量子コンピュータへの応用を可能にするものだと説明している。

なお、同成果は英国科学雑誌「Nature Communications」オンライン版で公開されている。

今回行われた光子の非局所性検証実験の概念図。上部はアインシュタインの思考実験の検証方法。今回の研究では、実験装置の簡略化を図るために生成した光子を部分反射ミラーで2つの光路に分けてピンホールの代わりとしたほか、両側で光子の有無を観測する代わりに、電磁波の測定であるホモダイン測定を実施。これにより、高効率かつ多くの情報を得ることができ、ここで片側のホモダイン測定の位相を変更すると、それに応じてもう片側の状態が変化していることを確認したという。下部はEPR-steering法を用いた検証方法。Aliceはホモダイン測定結果の符号のみを判別し、Bobは量子状態を推定する。Aliceの観測位相と結果に応じて、Bobの量子状態が変化すれば、測定が遠隔地に与える影響(=非局所性)が存在する根拠を示すことができる

今回用いられた実験装置の光学系の拡大図。500枚以上のミラーから構成されており、光路は10万分の1ミリの精度で調整されており、装置の安定性を確保するために10を超す動的制御機能が導入されたという