先月9日にプライベートマーケットプレイスを取り扱う新会社設立を発表した株式会社intelish(インテリッシュ)。

今回は自社インタビューということで、代表取締役の小川と取締役の柏村にPMPの基本的な部分から、intelishがどんな課題を解決するのかを聞いてみました。

始めにintelish代表の小川さん、取締役の柏村さん、それぞれの簡単な自己紹介をお願いします。

小川 : この度intelishの代表取締役に就任しました小川です。2012年にVOYAGE GROUPに入社し、adingoにてSSP「Fluct」に携わりました。最初の1年はメディアへの営業、2年目にはDSPやアドネットワークとのアライアンス業務、3年目にはeCPM改善の機能開発を行ってきました。2年目のアライアンス業務の頃から海外のカンファレンスにも参加していたのですが、2014年春の海外カンファレンス参加が、PMP(「プライベートマーケットプレイス」)についてそのメリットについて深く考えるきっかけとなりました。元々興味を持っていたPMPですが、海外ベンダーと直接議論する中で、マーケティング全体におけるPMPの意義や可能性を感じることとなり、帰国してから日本でのPMPの展開方法を模索し始めました。そのような時、タイミングよくエスワンオーインタラクティブ(以下s1o)とご縁があり、今回プライベートマーケットプレイスの開発・運用を行うintelishを設立しました。

柏村 : 同じくintelishの取締役に就任しました柏村です。s1oではシニアマーケティングストラテジストという肩書きで、広告主のマーケティング戦略を考える仕事をしています。クライアントのニーズを聞いて、マーケティング戦略から目標設定、KPI設定などに落とし込んでいく重要な仕事で、広告主側のスペシャリストとして今回intelishに参画しています。

今回、intelishはVOYAGE GROUPとs1oとの合弁会社として設立されました。この取り組みはお互いにどのようなメリットがあるのでしょうか?

小川 : 現在VOYAGE GROUPでは、adingoというグループ会社でSSP事業を広く展開し、多くのメディアと取引をしています。したがってメディアマネタイズについては膨大な知見が溜まっています。しかしながら、一方で広告枠を買う広告主側へのチャネルはないため、広告主のニーズはわかりません。PMPという市場は日本にとって新しい市場なので、スピード感を持って立ち上げるためには、すべて自社で内製するのではなく、弊社が持っていない広告主に直接ニーズをヒアリングするチャネルを持っているところとコラボレーションすることが最短であると感じていました。その中で、今回s1oと取り組みができる可能性が出てきました。多くのDSP、ひいては広告主と取引のあるs1oは、VOYAGE GROUPにとって非常に魅力的でした。また、PMP活用する場合にはとても細かな設計や運用が必要になっていきます。これらについてノウハウも実績もあり、PMPの世界観を理解し、かつ実行力があるということもs1oが魅力的であったもっとも大きなポイントです。

柏村 : s1oがVOYAGE GROUPと提携した理由の1つは、VOYAGE GROUPがメディア側の課題や知見などを貯めるチャネルを持っていたことです。我々はトレーディングデスク事業でDSP、広告主と真剣に向き合ってきました。今後もその姿勢は変わらないのですが、昨今のPMPの登場によって、よりメディア側の知見が広告運用に必要になってきています。そこで我々は、SSPを運営し、かつ自社メディアを持つVOYAGE GROUPと提携し、メディア側のノウハウを貯めようと思っています。また、2つ目の理由は、VOYAGE GROUPが自社でエンジニアをかかえていることです。s1oはトレーディングを特化にしているため、自社でエンジニアを持っていません。PMPを提供していく中で、裏側の仕組みを作る人間が絶対に必要です。ここも決め手となった重要なポイントでした。

PMPの本質的なメリットとは?

そもそもプライベートマーケットプレイス(PMP)とはどういった仕組みですか?

PMPはオークション型広告配信(RTB)の取引手法の1つです。現在主流であるオープンオークション型のRTBとPMPとの一番大きな違いは、広告主とメディアの双方で、誰が入札しどの媒体に広告表示がされるかが事前にわかることです。事前にどこのメディアに広告が配信されるか分かることで広告主はより安全に広告を配信することが可能になります。一方でメディア側も、自社メディアに不適切な広告が配信されることによるメディアのブランド毀損を防ぐことができます。

しかし、実はPMPのメリットの本質はそこではないんです。PMPの本当のメリットは、広告主側は広告が配信されるメディアが分かることで、全体の配信結果の数字だけではなく、もっと細分化してメディア単位での配信結果をしっかりと検証することが出来るようになることにあります。同じくメディアも、自社メディアにどの広告が配信されるか分かるので、自社メディアにどんな広告主が合うのかであったり、どんなコンテンツを作っていけば有効なのか、総合的に判断することが出来ます。このように、広告の評価をより多い情報の中で具体的に行うことが出来るのがPMPの最大のメリットです。

広告主とメディアそれぞれから見たマーケティング課題と解決策

現在のアドテク市場においてどんなマーケティング課題があると思いますか?

現在のアドテク市場はダイレクトレスポンスを中心に拡大しています。これは、インターネットの普及とテクノロジーの進化によって、広告主はより細かく効果検証を行うことが可能になったことが大きな要因といえます。この結果、広告主は費用対効果の最適化を突き詰めることになり、見込みのあるオーディエンスの刈り取りにフォーカスします。そうすると対象のオーディエンスがどんどん少なくなり、獲得効率はいいけれども、数がどんどん少なくなり、そしていずれはいなくなってしまいます。これが現在多くのマーケターが抱えている課題です。

そんな中で今後必要になるのは、新たに見込みのあるお客さんを連れてくることです。現在のDSP各社は、見込み顧客と同じような行動履歴を持った類似客層を発見するという形でターゲットとなるオーディエンスの母数を増やすソリューションを提供しています。そこでintelishでは別の形でオーディエンスの母数を増やしたいと思っています。PMPの特徴である「どのメディアに広告が配信されるか事前にわかること」を生かし、どのメディアに見込みの高いオーディエンスが存在しているかを発見し、他社よりも優先的にそのメディアに広告を配信するという形です。

対してメディア側の課題としては、先ほどお話した通り広告主がCPAを重視するため、メディアの価値が配信している広告のCPAが良かったらOK、悪かったらNGと画一的な判断をされるということです。さらにその評価はターゲティングされた特定のユーザーのみを対象としているので、ターゲティングされなかったユーザーは残り物として評価され、総合的にメディアの評価が下がってしまいます。もっとも重大な課題は、一度メディアの評価が下がってしまった場合に、何を改善すればいいのかという具体的な方法が無いことなのです。1つ1つのメディアが、どのようなコンテンツを持っていて、どんなユーザーが日々訪れているのか、というメディアの特性は、現状の仕組みだと評価されません。CPAが下がってしまったら最後、改善する手段がなく、広告を掲載をやめてしまったり、価格を下げざるえなくなり、結果としてメディア運営ができなくなる、という負のスパイラルに入ってしまいます。広告主が、PMPという仕組みを使って、メディアの情報を知って入札を行え、かつ配信の結果が広告主別に分かるようになることで、メディアは広告主に正しく自らの価値を伝えることができ、結果としてメディアマネタイズを助けることになると思っています。

intelishが提供する唯一の価値

このような中で、intelishは具体的に何を提供していくのでしょうか?

具体的には、PMPの取引環境の提供と、広告主とメディアの間に立ち、両社で得られたデータを活用して広告の運用を行います。広告主側には、配信先のメディアごとの成果をフィードバックしホワイトリストを作成したり、クリエイティブから配信先のメディア選定まで一気通貫で提案します。またメディア側にはどの広告主の広告効果が良かったかなどをフィードバックし、結果を踏まえたメディアマネタイズのお手伝いが出来るようにしたいと思っています。

他社とintelishのプラットフォームは大きくどんな点が差別化ポイントなのでしょうか?

他社との違いは大きく3つあると思っています。一番わかりやすい特徴は、intelishが日本で初めてのPMPに特化した会社ということです。一般的にはDSPの延長やSSPの延長でPMPを始める会社がほとんどです。DSPやSSPというメインプロダクトを持っていて、PMPという機能を追加するのではなく、PMPを専門で行う企業を日本で初めて立ち上げたという点が他社との大きな違いだと思います。

2つ目の違いは、PMPの需要が高まりつつある今、PMPに必要な機能がすぐに使える状態になったことだと思います。広告主側のニーズを理解し、その広告主とコミュニケーションするチャネルを有し、広告を運用する機能を持ち、配信するプラットフォームがあり、メディアに配信できて、メディアが広告を運用する機能があります。この一環した流れすべてを行えるのがintelishです。

最後の差別化ポイントなるのがPMPの機能に関する部分です。現在の日本市場では純広告に近い取引、いわゆる「オートメイティッドギャランティード」も “プライベートマーケットプレイス” として登場していますが、これは対象となるメディアがかなり限られます。我々intelishは日本市場によりマッチさせるため、RTB(入札形式)をベースに段階的にPMPを始めていこうと思っています。まずは広告主が持つホワイトリスト(広告主が持つ基準やKPIに対し条件を満たしているリスト)の優先掲載をファーストステップとして行います。そうすると価値提供の対象となる広告主やメディアの母数も、圧倒的に数が多くなります。ホワイトリストというのは、何らかの基準で広告主側が見て、このメディアには広告を出したいと思っているリストなので、そこに優先的に広告配信できるというのは広告主にとってメリットが大きいと思います。

大事なことは”結果を踏まえてPDCAサイクルを回せること”

intelishの目指す世界はありますか?

intelishは、広告主がマーケティングの課題だと思っている部分を新しい方法で解決したり、そもそも課題だと気付いていない部分に気付いてもらう役割になりたいと思っています。もしくは、課題と分かっていても目先の獲得目標に追われてしまって、目的である本来の課題解決に動けない担当者にとっても、課題に踏み込みやすい環境だったり、成果を追いながら課題を解決するような手段を提供していきたいと思っています。

まずは広告主側とメディア側の課題解決にフォーカスします。取引の安全性、つまり事前に取引相手が分かるということと、メディアをちゃんと知って広告主はメディアを買ってもらう。大事なことは、広告配信をした後、結果を踏まえて次の施策を考えるというPDCAサイクルを回せることです。その運用を可能にするのがintelishでありたいと思います。最初は、すでにDSPやSSPを使ったマーケティングをしている広告主とメディアに対し、課題の洗い出しと次の施策を打つべきかのご提案をします。その中の一つの切り口として、とあるメディアでの効果・相性の評価、広告する商品に合うメディア群のリスト化、リスト化したメディア群の優先買い付け、広告配信によるブランド想起の評価、というPDCAサイクルを回して、マーケティング活動を仕組化したいと思います。

今後のマイルストーンはありますか?

この1年で100社とお取引を開始することが当面の目標です。

最後に一言お願いします。

PMPの市場はまだまだはじまったばかりです。「PMPってなに?」「どういことができるの?」「うちでも使えるの?」といった小さな疑問でも構いません。少しでもご興味があれば、本当に気軽にメッセージを頂ければと思います。カジュアルな説明もしますし、ご希望があれば説明会、勉強会、座談会等を開催しますので、たくさんの方々にPMPを使ったマーケティングのお話が出来ればと思っています。

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本稿は、adingo Marketing Magazineに掲載された記事を転載したものです。