電気通信大学は3月3日、小脳の運動学習の理論を構築し、運動の記憶がトレーニング後に小脳内でどのように定着するのかを理論的に明らかにしたと発表した。

同成果は電気通信大学大学院情報理工学研究科情報・通信工学専攻の山﨑匡 助教、理化学研究所脳科学総合研究センターの永雄総一 博士、University of California, San DiegoのWilliam Lennon氏、電気通信大学脳科学ライフサポート研究センターの田中 繁特任教授らによるもの。3月3日付け(現地時間)の「米国科学アカデミー紀要」に掲載された。

毎日コツコツ勉強して覚えた内容は、一夜漬けで覚えた内容に比べて頭に残りやすくなる。この現象は「分散効果」といい、運動学習においても起こることが発見されている。またトレーニングを終えて休んでいる間も、脳は記憶を定着させるために働き続けていることもわかっている。しかし、記憶の定着過程において脳内で何が起きているかはよくわかっていなかった。

今回の研究では、運動の中で最も簡単な神経回路で生じる目の反射運動に着目し、視機性眼球運動(OKR)の適応と呼ばれる運動学習について、小脳の神経回路の数理モデルを構築し、シミュレーションを行った。

その結果、トレーニングを行うと、短期記憶に関与する小脳皮質で神経細胞のつなぎ目(シナプス)での信号の伝わり方が変形して形成されたが、トレーニング後はその記憶は自然に消滅した。一方、小脳皮質の出力先であり、長期記憶に関与する小脳核で全く別のシナプスに同様の変化が起き、小脳皮質に形成された記憶が小脳核へ転送されるようにして定着することがわかった。

記憶の定着がトレーニング後に起こるということは、全体で1時間トレーニングを行うより、15分のトレーニングを4回行った方が内容が定着することを示唆した。この理論は動物実験と非常に良く一致することも確認されたという。

同研究グループはこの成果について「より効果的な学習・記憶法の確立や、生物の運動学習のメカニズムに基づいて動作を自ら獲得する知能ロボットの開発への応用が期待される」としている。

シミュレーションの結果。(A)マウス実験と数理モデルでのOKR適応の比較。(B)数理モデルの小脳皮質のシナプス(青)と小脳核のシナプス(青)の伝達効率の変化。