高分子(プラスチック)半導体の中での分子鎖の運動性が電荷分離に及ぼす影響を、九州大学大学院工学研究院の田中敬二(たなか けいじ)教授と川口大輔(かわぐち だいすけ)准教授らが初めて突き止めた。有機薄膜太陽電池の高性能化につながる成果として注目される。2月13日付の英オンライン科学誌サイエンティフィックリポーツに発表した。

図1. 高分子半導体のP3HTの化学構造(提供:九州大学)

高分子半導体からなる有機薄膜太陽電池は軽くて設置しやすいため、次世代の太陽電池として期待されている。ただ、光を電気に変換する効率が低いことが課題になっている。研究グループは代表的な高分子半導体のポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)を対象に研究した。この物質は硫黄(S)を含むチオフェン環を単位にヘキシル基が結合した剛直な高分子で、電気を流す能力が高く、溶剤に溶かして簡単に塗布できる。光を吸収して電荷を生成することは知られていたが、その仕組みは十分にわかっていなかった。

図2. 光照射によるポーラロン対と自由電子のポーラロン生成の模式図。赤丸が正電荷、青丸が負電荷。(提供:九州大学)

このP3HTに光を照射すると、ポーラロン対と呼ばれる正電荷と負電荷のペアが生成したあと、自由電子(ポーラロンと呼ぶ)に分離することを実験で確かめた。この過程は27℃の室温付近で速くなった。温度が上がると、P3HTの中のチオフェン環はパタパタとねじれ始める。このねじれは室温付近を境に低温で凍結され、高温で解放されることも見いだした。この発見で、チオフェン環のねじれ運動が電気を流すのに重要であることが判明した。

田中敬二教授は「光電変換の効率を上げるには、チオフェン環のねじれ運動を自在に操る分子設計が必要になる。高分子半導体は薄いため、電極や絶縁層などの材料と接して使われるので、界面での光電荷生成についても調べたい。これらの成果は、有機エレクトロニクスデバイスの高性能化の基盤で、将来的には、より薄いディスプレーや太陽電池につながるだろう」と話している。