2015年1月にOS担当EVP(エグゼクティブバイスプレジデント)であるTerry Myerson氏が明らかにしたように、MicrosoftはWindows 10においてWindows 7/8.1/8.1からの無償アップグレードを提供する。残念ながらWindows Vistaは対象外だが、Windows Vistaのファーストリリースは2006年11月であることを踏まえると、当時のPCでWindows 10が快適に動作するとは考えにくい。

もっとも、技術的な観点から見れば、Windows Vista以降、カーネルを含める基礎設計はドラスティックに変化しておらず、機能拡張やUIの変化にとどめている以上、Windows Vistaからのアップグレードは難しくないはずだ。これは商業的な側面が影響している可能性が高い。IDC Japanの調査情報によれば、2014年下半期におけるWindows Vista搭載PCの稼働台数や約340万台。日本マイクロソフトが中心となって運営しているWDLC(Windows Digital Lifestyle Consortium)は、今春の販売促進キャンペーンとしてWindows Vista搭載PCをターゲットにしている。

2015年2月12日に開催したWDLCのスライド。日本マイクロソフトとしては、アップグレードサポート外のWindows Vista搭載PCからの買い換えをうながしている

さて、そのWindows 10が搭載する機能に関して注目すべきは、パーソナルデジタルアシスタント「Cortana(コルタナ)」だ。すでに同種の自然言語処理システムは、Appleの「Siri(シリ)」、Googleの「Google Now」が普及しており、これで各プラットフォームの音声インターフェースが出そろうことになる。

Windows 10が搭載するパーソナルデジタルアシスタント「Cortana」

iPhone上で動作する「Siri」。2011年10月、iPhone 4sに初搭載され、2012年3月には日本語にも対応した

Android上の「Google Now」。2012年10月から使用可能になり、ユーザー行動をもとにしたナビゲーション機能を持つ

iPhoneユーザーならご承知のとおり、日本語に対応した直後のSiriは誤認識も多く、子どものおもちゃ程度だった。しかし、Siriで取得したデータをもとに精度を高め、現在ではメモ作成やメール返信などにも使えるレベルに迫ってきた。

Cortanaや検索に関するプログラムマネージャーのMarcus Ash氏は、公式ブログで「Cortanaは対話のなかでユーザーの好みを学び、パーソナライズした情報へ素早くアクセス可能にする」と語り、Google Nowに近い動作を目指していると説明した。

Microsoft グループプログラムマネージャー Marcus Ash氏

CortanaがストレージやOneDrive上のファイル検索やユーザー行動に基づいた情報カードの提示、メール作成、リマインダーに対応していることは、Windows 10テクニカルプレビュー ビルド9926でも確認できる。Siriが日本語をサポートした直後の状態を鑑みれば、当初の音声認識に過度な期待を持つべきではないが、Ash氏が語っているとおり、Cortanaが次世代のNUI(ナチュラルユーザーインターフェース)につながる存在となるは明らかだ。

Cortanaによるファイル検索。ローカルストレージやOneDrive上のファイルを音声で検索できる

ユーザー行動をもとにした情報提示機能。興味のあるニュースや料理、職場などへの移動手段が並ぶ

メールも音声で作成できる。この辺りはSiriで実現しているため、正直目新しさは感じない

音声によるリマインダー作成。「Windows 10 for Phones」と連動することで利便性が向上しそうだ

もちろん従来のデスクトップPCでCortanaが常に動作していても利便性は大きくない。ポイントはWindows 10がPCやタブレットだけではなく、スマートフォンでも動作する点だ。2015年2月12日(米国時間)に「Windows 10テクニカルプレビュー for Phones」がリリースされたが、Windows 10はPC/タブレット/スマートフォンという異なるデバイスで同じコアプラットフォーム化を目指している。

そのため、Windows 10を搭載したPCとスマートフォン両者があれば、Cortanaの情報カードが示した通勤情報をWindowsストアアプリの「地図」で確認し、その情報をスマートフォン上でナビゲーションするようなシナリオも実現可能。たとえばオフィスのWindows 10搭載PCで取引先などへの外出予定を登録し、外出時に所持するWindows 10 for Phones搭載スマートフォンで目的地までの移動を確認するといった具合だ。このシナリオからCortanaの存在が、Windows Phoneの訴求性を高めると同時に、日本再上陸の可能性を押し上げることにつながると述べても構わないだろう。

OSグループCVPのJoe Belfiore氏が操作するWindows 10テクニカルプレビュー for Phones。モダンUIデザインはWindows Phone 8.1を踏襲し、同じく使いやすそうだ

Cortanaによる通勤情報をスマートフォンで受け取り、ルートナビゲーションを行うといった活用シーンも

Cortanaは、Windows 10の登場に伴って日本でも広く使われることとなる。執筆時点では英語と中国語がβレベル、ドイツ語やイタリア語、フランス語にスペイン語はαレベルの段階のため、我々日本人がパーソナルデジタルアシスタントの恩恵を受けるのは、まだ先の話。だが、今後もWindowsを使い続けるユーザーにとってWindows 10の存在は、我々のデジタル生活を変える大きなターニングポイントとなるだろう。

阿久津良和(Cactus)