日本銀行は11日、ロンドンで行われた第7回日本証券サミットでの佐藤健裕審議委員の「デフレ脱却に向けた日本銀行の取り組み」の講演の冒頭発言を発表した。それによると、佐藤審議委員は「日本経済は、家計部門・企業部門とも所得から支出への前向きな循環メカニズムがしっかりと作用し、基調的に緩やかな回復を続けており、先行きも緩やかな回復基調が続くとみられる」との見方を示した。

一方、物価面では、最近の原油価格低下を受け、日本も含め、主要国のインフレ率は軒並み低下傾向にあるという。こうしたなか、主要国の中央銀行はインフレ率の低下が人々の中長期的な予想物価上昇率に影響し、それがインフレ率の一段の低下をもたらすフィードバックループに陥るのではないかという問題意識を共通に抱えているという。日本銀行が2014年10月に「量的・質的金融緩和」を拡大したのもそうした理由からだったとしている。

デフレ脱却に向けた3つの考え方

「量的・質的金融緩和」の効果について

「量的・質的金融緩和」の効果は資産買入れの進捗とともに累積的に強まっているという。日本銀行は、年間約80兆円に相当するペースで長期国債保有残高が増加するよう国債の買入れを行っている。年間80兆円という額は、政府の新規財源債の発行額を大幅に上回るが、これは最終投資家の国債保有残高の減少を意味するとしている。日本の機関投資家は、国際的な金融規制に対応するなか、国内において貸出など他の投資機会が不足していることもあり、国債への選好が強い。このため、日本銀行による大規模な買入れが続くなかで、その金利形成面への影響は「質的・量的金融緩和」拡大以降、一段と顕著になっている。日本銀行が現状、グロスベースでみた市中発行額の約9割を買い入れていることから、やや長い目で見て、「量的・質的金融緩和」が出口を迎える際には、市場の価格発見機能の円滑な回復が課題になるとしている。

日本銀行の掲げる「物価安定の目標」について

「物価安定の目標」の達成状況の評価については、特定の物価指標に着目するのではなく、賃金を含む幅広い物価指標を丹念に点検していくなかで、企業や家計など人々の行動様式がある程度の物価上昇を前提としたものに変化していくかどうかが重要と考えているという。「物価安定の目標」実現には、幅広い主体の構造改革努力を通じた生産性上昇とそれによる潜在成長力向上も必要と考えているという。そうしたもとで、緩やかな物価上昇が生じ、生産性に見合う賃金の改善が持続的に進むことで、人々はデフレ脱却の恩恵を享受できるようになるとしている。生産性上昇の鍵を握るのは設備投資であり、最近の労働市場の逼迫などが企業行動の変化の呼び水になることを期待しているという。

「量的・質的金融緩和」を最終的に成功に導くにあたり、財政健全化努力の重要性について

「量的・質的金融緩和」を最終的に成功に導くうえで、財政運営への信認確保は重要だという。政府の財政健全化に向けた取り組みは、やや長い目で見て、「物価安定の目標」を安定的に実現し、「量的・質的金融緩和」からの出口を探る際にも、慎重になっていくという。今後も、持続可能な財政構造の確立に向けた取り組みが着実に進められることを期待しているという。

「量的・質的金融緩和」は名目金利を国債買入れにより抑えつつ、人々の中長期的な予想物価上昇率の引き上げを図ることで実質賃金を押し下げるという難度の高い政策だという。これまでのところ、資産市場をはじめ、家計や企業の行動様式に前向きな変化が生じるなど、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しているとみている。日本銀行としては、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に維持するために必要な時点まで「量的・質的金融緩和」を持続するという。また、その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行っていくとしている。その際、人々の行動様式がある程度の物価上昇を前提としたものに変化していくかどうかが、判断基準になると考えているとしている。