熊野沖の南海トラフで高温履歴の水検出

紀伊半島の東南に位置する南海トラフ熊野海盆の海底泥火山から掘削された堆積物に、最高310℃と推定される高温を経験した水の成分が含まれることを、海洋研究開発機構の西尾嘉朗(にしお よしろう)技術主任らが見いだした。南海トラフ地下深部の情報を伝える新しい手がかりになる。琉球大学理学部の土岐知弘(とき ともひろ)助教らと共同研究で、1月28日付の国際科学誌Earth and Planetary Science Lettersオンライン版に発表した。

地図. 南海トラフの熊野海盆第5泥火山の位置(左)と、その周辺の詳細な海底地形図(右)(提供:海洋研究開発機構)

泥火山は、地下深部で形成された水分を多く含む泥質堆積物が表層に噴き上がってできた円すい形の高まりで、火山とは異なる。これまで、熊野海盆の海底泥火山に含まれる水は温度が60~150℃付近(推定海底下5km)の粘土鉱物の脱水に由来すると考えられてきたが、今回の研究で初めて、210~310℃付近(推定海底下15km)の履歴を持つ水が含まれていることがわかった。南海トラフの海底下深部の複雑な水の動きを示すもので、巨大地震が繰り返し起きるプレート境界の地殻変動や物質循環を理解するのに寄与しそうだ。

グラフ. 水と岩石のLi同位体比の違いから温度推定する方法の概念図(提供:海洋研究開発機構)

図. 約300℃(もしくはそれ以上)の深部由来の水の上昇が、南海トラフ熊野灘の海底泥火山に供給される経路を示した模式図。地震の震源域に近い深度からの水の供給は、泥火山の形成要因のみならず、地殻変動に影響を与えている可能性がある。(提供:海洋研究開発機構)

日本近海では、紀伊半島南東沖の熊野灘や種子島沖の南海トラフ沿いに多数の泥火山が確認されている。それらの泥火山には、科学掘削で直接採取することが難しい大深度の物質が含まれている。研究グループは、地球深部探査船「ちきゅう」が2009年と12年に熊野海盆第5泥火山の山頂から採取した掘削コア試料で、泥火山に含まれる間隙水を分析した。

間隙水中のリチウム(Li)の同位体比(7Li/6Li比)に着目した。Liは高温で岩石から水に溶出する性質を持つ。高温を経験した深部流体は海水などに比べて軽い6Liを多く含むことが知られており、この性質を利用して、泥火山の形成に寄与した水の起源や温度履歴を探った。同位体比の分析の結果、熊野海盆第5泥火山から採取された掘削コア試料の間隙水には、軽いLi同位体組成(低7Li/6Li比)を持つLiが多く含まれることがわかった。

一般に、高温を経験した水ほど、粘土から水に溶けてくるLi同位体組成(低7Li/6Li比)が軽くなる。一方、海水や周囲に熱源が存在しない場所の地下水は、重いLi同位体組成(高7Li/6Li比)を示すため、Liが溶出された場所の温度を推定できる。今回の分析で、熊野海盆第5泥火山の水に含まれるLiの軽い同位体組成から、泥火山に含まれる水の一部が210~310℃という高温・大深度の履歴を持つことが明らかになった。

海底の電気伝導度の調査の測定から、南海トラフには電気の通りやすい水たまりが少なくとも2つある可能性が示されていた。このうち、海底下5kmより浅い水たまりの温度は60~150℃に分布する。一方、くさび状マントルの先端部に相当する地下20~40kmに、より高温の400℃を超える別の水たまりがあることが示唆されている。高温履歴を持つ水は、沈み込んだ地下20km以深で海洋プレートから脱水したとみられる。Li同位体比による研究は2000年以降に始まったばかり。これほど高温履歴の水が南海トラフ周辺で発見されたのは初めてという。

研究グループは「今回検出された最高310℃以上を経験した水の存在は、南海トラフに点在する泥火山の水の起源に、地下20kmより深い水たまりに由来する水が含まれている可能性を示した。泥火山は海底下深部と表層をつなぐ『天然のパイプライン』ともいえる。南海トラフ巨大地震の震源域に関連する新しい情報なので、海底地下の地殻構造を見るひとつの手段として研究を発展させたい」としている。

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