東京大学は2月3日、鉄カルコゲナイドが超伝導状態へと変化する温度(臨界温度)を、従来の15K(-258℃)と比較して1.5倍の23K(-250℃)に上昇させることに成功したと発表した。

同成果は、同大大学院 総合文化研究科の今井良宗助教、前田京剛教授らによるもの。詳細は、米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」のオンライン速報版で公開された。

鉄カルコゲナイドは、鉄(Fe)、テルル(Te)、セレン(Se)から構成される物質である。しかし、従来の合成手法では単一の固溶体を形成しない、つまり、セレンとテルルの比が一定にはならない現象(相分離)が起こる組成領域が存在し、鉄カルコゲナイドの特性を理解する上で大きな障害となっていた。今回の成果は、このような問題を鉄カルコゲナイドの薄膜試料を作製することにより克服した画期的なものであるという。

鉄カルコゲナイドは鉄系超伝導体の一種であるため、これらの物質が超伝導状態を発現する機構の解明に向けた研究が一層加速することが期待される。また、今回観測した大幅な超伝導臨界温度の上昇は、同物質の応用化を大きく促すものであり、他の超伝導体においても、臨界温度を向上させるための新しい有力な指針ともなりうるものであるとコメントしている。

鉄カルコゲナイド超伝導体FeSe1-xTexの結晶構造。鉄とセレン(テルル)の四面体からなる層だけが積み重なった構造をとる。鉄系高温超伝導体の中で、最も単純な結晶構造である

鉄カルコゲナイド超伝導体FeSe1-xTexのバルク結晶と薄膜試料について、電気抵抗率の温度変化。縦軸の電気抵抗率は、バルク結晶、薄膜試料についてそれぞれ35K(-238℃)の電気抵抗率が1としたときの値を示している。灰色のカーブが従来報告されていたバルク結晶の値であり、超伝導臨界温度はおおよそ15K(-258℃)である。赤色のカーブが今回作製に成功した薄膜の値で、超伝導臨界温度はおおよそ23K(-250℃)である