米Appleがシリコンバレー周辺で運転手のいない自動車の運転テストを行っているのではないかと話題になっている。同件はCBS San Franciscoなどが報じており、同地域で撮影された写真を基に自動車管理局に問い合わせたところ、自動運転装置らしきカメラ装備を取り付けた問題の車はAppleへリースされたものだと判明したという。同種の車がニューヨーク近郊でGoogleによってテストされている風景が目撃されていることからも、Appleがシリコンバレーで同種のテストを行っている可能性があるとCBSでは推測している。

問題の写真が撮影されたのは米カリフォルニア州コンコード(Concord)で、シリコンバレーのあるサンフランシスコ・ベイエリア近郊のベッドタウンだ。Claycord.comというBlogが天井に謎の装置を取り付けた車が同地区で走っている様子を収めた3枚の写真を掲載したところ、装置にはカメラ等のセンサーが取り付けられており、車は自動運転に用いられているのではないかとの反響があったという。さらに、同種の装置を取り付けてGoogleロゴの描かれた車が、米ニューヨークのブルックリン地区を走っている様子が動画で撮影され、YouTubeに掲載されていることが紹介されていた。これは、同社がニューヨークで実験している自動運転車(Self-Driving Vehicle/CarやDriverless Carなどと呼ばれることがある)なのだという。

これらの情報を受けてCBSがDMV (Department of Motor Vehicle)に問い合わせたところ、問題のDodgeのミニバンはAppleにリースされたものだと判明したという。Googleとは異なり、ロゴが掲出されていないのはAppleが秘密裏に実験を行っている可能性もあるものの、実際には既存の自動車メーカーとの共同プロジェクトで、Appleはあくまでその協力メーカーの1社である可能性もあると、CBSでは技術アナリストRob Enderle氏のコメントを引用して紹介している。

自動運転車が実現するために

自動運転車の実現には、さまざまな技術的アシストと法規制の壁がある。公道でのテストは許可制であり、個々のベンダーが勝手にテストを行っているわけではなく、多くの場合は共同プロジェクトの形で複数のメーカーが互いの技術を持ち寄って実験を行っている。例えば公道テストが許されているカリフォルニアでは膨大な走行テストが行われており、必要なデータ収集が進んでいる。1月初旬に実施されたテストでは、米カリフォルニア州パロアルトから米ネバダ州ラスベガスまで、州をまたいだ高速道路走行に成功している。この実験で自動走行改造が施されたAudi A7に同乗したWiredの記者が記事を記している

自動走行についてはさまざまな技術が検討されており、GPSによる位置のナビゲーションだけでなく、レーダー装置で車間や障害物との距離を計測して運転速度やブレーキの調整を行うほか、LIDAR (LIght Detection And Ranging)のような光学解析技術を行動決定に活用するなど、これが従来の自動車メーカー以外の技術系メーカーを参入する余地を増やしている。特に映像解析に必要となるイメージセンサーや高速処理が可能なプロセッサ、ソフトウェア技術、通信技術が重要となり、今年1月に開催されたCES 2015では、従来のインフォテインメントの枠を超えた車業界参入の発表が各社から相次いでいる。

前述の大量のカメラとおぼしき装置を搭載したGoogleの自動運転車もまた、そうしたトレンドの延長にある。これはメーカー側だけでなく、サービス提供者側も注目している。例えば自動車配車サービスを提供するUberは、急速にビジネス提供地域を拡大しており、ドライバーの確保と"その質"の維持に苦労しているが、自動運転車の導入は、将来的にこの問題を解決する可能性があるとして、業界参入に積極姿勢を見せている

米ニューヨークで掲示されていたUberのドライバー募集広告。月額1万ドル(約117万円)の報酬を約束するという。オファーとしては破格だ

Appleはどう関わっていくのか

では、Appleはこうしたトレンドにどう関わっていくのだろうか。Patently Appleの記事でまとめられているが、米AppleのM&A担当責任者のAdrian Perica氏と電気自動車メーカーで知られる米Tesla MotorsのElon Musk氏が顔を合わせていることが昨年2014年に話題となり、「AppleがTesla買収で自動車産業参入か」と騒がれたが、後にこれは否定されている。最終的に、ここでの話し合いの1つは今春ローンチ予定のApple WatchでTeslaの車を制御できる仕組みを取り込むためのものだという話が出ている。もっとも、それだけでは前述のような自動運転車のプロジェクトにAppleが関わる理由は薄い。

同社がこの種のプロジェクトに関わる要素があるとすれば、同社がプラットフォームとして持つスマートデバイス群(iPhoneやiPad)との連携、あるいは米国では比較的利用されているApple Mapsのようなクラウドプラットフォームの提供、あるいは自動運転車そのものを利用した新サービスか何かだろう。GoogleがUberの領域に乗り出すという報道が数日前に出ているが、Appleもまた何かを考えている可能性がゼロではない。

いずれにせよ、自動運転車の時代は意外と身近なところまで来ているのかもしれない。