東北大学は1月29日、ビスマス(Bi)金属薄膜の端(エッジ)で、電子の運動方向と連動してスピンの向きが揃うラシュバ効果が起きていることを突き止めたと発表した。

同成果は、同大 原子分子材料科学高等研究機構の高山あかり研究員(現 東京大学大学院 理学系研究科 助教)、高橋隆教授、同大大学院 理学研究科の佐藤宇史准教授、大阪大学 産業科学研究所の小口多美夫教授らによるもの。詳細は、米国物理学誌「Physical Review Letters」のオンライン版に掲載された。

ラシュバ効果は、磁石の性質を持っていない物質でも、電子のスピンの向きを揃えることができるため、次世代スピントロニクスデバイスの動作メカニズムとして注目されている。これまで、さまざまな物質で薄膜表面のラシュバ効果は観測されており、それを利用した素子の作成も研究されているが、ラシュバ効果が表面や界面などの2次元面で発生する現象であることから、小型化には限界があると考えられていた。

研究グループは、スピン分解光電子分光法という手法を用いて、Bi金属薄膜の電子スピン状態の観測を試みた。重い金属であるBiは、その表面において強いラシュバ効果を示すことが知られていたが、今回、Bi原子層薄膜の最表面のエッジ構造に着目して測定を行った。エッジ構造は、試料全体から見るとほんの少ししか存在しないため、これまで観測することが非常に難しいとされていたが、高感度のスピン分解光電子分光装置を用い、試料作成方法を工夫することで、エッジ構造の電子スピン状態の観測に成功した。その結果、エッジに存在する電子がラシュバ効果を示し、さらにその大きさがこれまで観測されていた表面でのラシュバ効果よりも大きいことを発見した。

今回の研究で観測されたエッジでのラシュバ効果は、表面でのラシュバ効果よりも少ない電力で特定方向にスピンを揃えることができ、1次元のエッジでスピンの方向が制御できるため素子の小型化が期待できるなど、小型で省エネルギーなスピントロニクス素子の開発に道を拓くものであるとコメントしている。

Bi薄膜の構造の模式図。通常の結晶は3次元、最表面は2次元の構造をもち、表面が不連続な場合は境界がエッジになる。エッジでは電子スピンの方向に偏りがあり、その方向はエッジによって異なる