台風の発生予測は気象予報の課題のひとつである。その可能性を示す研究が出た。台風の当たり年だった2004年8月に発生した8個の台風について、地球全体の雲の生成・消滅を詳細に計算できる全球雲システム解像モデル「NICAM」を理化学研究所のスーパーコンピュータ「京(けい)」で計算して、約2週間先の台風発生予測が可能であることを、海洋研究開発機構の中野満寿男(なかの ますお)特任研究員と東京大学大気海洋研究所の佐藤正樹(さとう まさき)教授らが実証した。台風発生予測に道を開く成果といえる。1月20日付の米地球物理学誌Geophysical Research Lettersオンライン版に発表した。

表. 台風発生前に開始したシミュレーションでの台風発生予測の的中率(%)。2004年8月に発生した台風のうち、大型台風だった半数の15~18号は2週間前から40%以上の確率で予測できた。(提供:海洋研究開発機構)

図. 2004年8月の台風18号の発生予測。シミュレーションで予測した太平洋の台風発生域の西風。発生3週間前(上段)では、発生予測は難しいが、2週間前(中段)では徐々に発生を予測できるようになり、発生1週間前(下段)では、ほぼ正確に発生の場所と日時を予測できたことを示す。長く伸びる黒い線で囲った部分が西風の強い海域。(提供:海洋研究開発機構)

台風はしばしば急に発達する。発生がかなり前にわかれば、防災に役立つ。日本の気象庁など世界のいくつかの台風予報センターは1~5日後の台風発生を予測しているが、精度が十分でなかったり、予測期間が短かったりという問題がある。研究グループは、雲の効果が台風発生に及ぼす影響を重視して、雲の生成・消滅や、雲の中での雨や雪の生成・落下を物理法則で直接計算できる気象シミュレーションプログラムNICAMを開発した。

2004年6~10月は、水平方向に数千キロにも及ぶ積乱雲群が約30~60日の周期で北進する大気変動の「北半球夏季季節内振動」(BSISO)が太平洋北部赤道部で顕著に見られ、フィリピンの東で対流活動が強かった6月と8月には、平年(1981-2010年の30年平均)より多い、それぞれ5個(平年値1.7個)と8個(平年値5.9個)の台風が発生した。研究グループは「京」でNICAMを用い、2004年8月1日から31日までシミュレーション開始日を1日ずつずらしながら、31本の1カ月予測を実施した。

2004年8月28日に発生した台風18号(死亡・不明47人、全国に大被害)発生時の大気循環の様子を解析したところ、モンスーン(季節風)に伴う南西風と北東貿易風がぶつかる領域にできる低圧帯の「モンスーントラフ」が中部太平洋のマーシャル諸島付近まで大きく張り出していたことがわかった。NICAMによるシミュレーションでは、このモンスーントラフの張り出しを台風18号発生の2週間前から高い精度で予測できた。その結果、台風発生も予測できていたことになる。

モンスーントラフの張り出し具合は、積乱雲群が北進する大気変動のBSISOで左右される。BSISOと台風発生とに関係があることは、観測データの解析でこれまでも指摘されていたが、今回の成果は、雲システムを解像できる全球モデルNICAMが、BSISOを高い精度で予測でき、台風発生も高い精度で予測可能となることを世界に先駆けて実証した。

中野満寿男特任研究員は「地球全体の雲の影響を物理法則で計算できる『京』が使えるようになって、台風発生予測も大きく前進した。2004年というBSISOが顕著に見られた年について、台風発生予測が2週間前から可能であることを示せた。BSISOが顕著ではない年でも、2週前から予測できるか、検証していく必要がある。今後、モデルの解像度を上げたり、より精緻な雲の計算手法を取り入れたりして、予測の精度を向上させたい」と話している。