自閉症の子どもは、多くの人の顔の中から怒り顔を素早く見つけだすのが苦手なことを、京都大学霊長類研究所の正高信男(まさたか のぶお)教授と大学院生の磯村朋子(いそむら ともこ)さんが実験で示した。自閉症の子どもたちが直面するコミュニケーションの困難の一因に関係している可能性がある。幼児らの障害の診断や療育の手段になりそうだ。12月18日付の英オンライン科学誌サイエンティフィックリポーツに発表した。

図1. 「ウォーリーをさがせ」実験に用いた刺激の例。左では1人だけが怒り顔、右では1人だけが柔和な笑い顔をしている。(提供:正高信男京都大学教授)

自閉症のこどもは、他人とのコミュニケーションに困難があることは近年よく知られるようになった。その原因は、「他者の心情を理解することができない」といった認識や推論に問題があると考えられてきた。しかし、正高信男教授らは、そういう見方とはまったく反対に、自閉症の子どもは基本的な表情の読み取りが苦手であることが、他人とのスムースな交渉を阻害しているのではないかと考えて、実験をした。

図2. 成績の比較。自閉症のこどもでは怒り顔だからといって、素早く見つけることができない。(提供:正高信男京都大学教授)

学業に困難はないが、人とのやりとりが苦手な自閉症の小学生20人(平均9歳)を対象に、1枚の図に描かれた12個の顔の中から1人だけ特別な表情をしている者を探し出すという「ウォーリーをさがせ」のような課題をさせて、成績を定型発達の子ども20人と比べた。定型発達児では、捜しだすのが怒り顔の場合、非常に早く見つけ出せるのに対し、自閉症の子どもは、素早く見つつけだすことが困難だった。笑い顔を捜す課題では、定型発達の子どもと成績に大きな違いはなかった。

正高信男教授は「怒り顔は、向けられた者にとって身の安全を脅かす信号なので、迅速に対処しようとすることはヒトの適応的な反応といえる。その情報処理はほとんど意識下でなされると考えられる。しかし、自閉症の子どもでは、そういう怒りの表情を意識下で素早く読み取り、状況ごとに対応を変化させる柔軟性が乏しいのではないか。より小さな子どもにも同様の実験を試みて、自閉症との関連を研究したい」と話している。