9日の日経平均は、122円安の17,813円でした。8日のNYダウが石油関連株の値下がりによりマイナスとなったことや、ロシアやUAEなど産油国株が大きく下がったことが嫌気されました。9日のNYダウは51ドル安の17,801ドルと続落しています。日経平均18,000円、NYダウ18,000ドルという節目を迎え、上昇ピッチの速さに警戒が出ており、目先は利益確定が優勢となりそうです。

ただし、スピード調整が済めば、日経平均・NYダウとも再び上値トライすると考えています。今回は、原油急落が日本および世界に及ぼす影響を考えます。

(1)米国のシェール・オイル増産が原油価格急落を招く

NY原油先物価格WTI期近 : 2014年4月~12月8日

(出所:ブルームバーグ)

米国がシェール・ガスの大増産に動いていることが、原油価格急落の根本的な原因となっています。米国の非在来型(シェール)ガス・オイル革命の影響が、世界を揺るがし始めています。

米国では、当初、シェール・ガス中心に開発・生産が進みました。それで天然ガス市況が世界的に下落しましたが、原油価格は高止まっていました。そこで米国では、ガス市況の下落で採算の悪化した採掘業者が、シェール・ガスを減産してシェール・オイルを増産する動きが活発になりました。その影響がついに、原油価格急落となって表れたのです。

OPEC(産油国による価格カルテル)に加盟するサウジアラビアなど中東産油国は、当初、減産によって原油価格を維持しようとしました。しかし、減産合意ができずに、原油価格の急落を招きました。OPECの価格支配力が低下していることが明らかになりました。

(2)原油急落で変わる世界、産油国は逆オイル・ショックに見舞われる可能性も

来年の世界経済は、原油急落によって、大きな影響を受けそうです。日米欧先進国は、原油下落の恩恵を受けます。世界中の天然資源を爆食(大量消費)してきた中国やインドも、エネルギー輸入コストが低下する恩恵を受けます。

一方、ロシア、ナイジェリア、ベネズエラ・中東産油国など、原油やガスの輸出に依存してきた国には、ダメージが及びます。サウジアラビアやUAEなどの中東産油国は、過去に原油輸出で稼いだ外貨が豊富にあるので、すぐに問題が表面化することはないが、ナイジェリアやベネズエラは財政の悪化で危機的状況に追い込まれる可能性もあります。

原油やガスだけではなく、鉄鋼石や石炭など資源価格は全般に大きく下がっています。鉄鉱石や石炭の輸出に依存してきたブラジル経済も、来年は厳しい局面が続きそうです。

(3)日本は原油価格下落の恩恵を一番大きく受ける

日本は今、世界一割高なLNG(液化天然ガス)を輸入して使っています。そのことが、日本経済を圧迫してきました。日本は、これまで世界の天然ガス市況が下落しても、その恩恵を受けることはできませんでした。日本は、パイプラインを使ったガス輸入はやっていないからです。日本は、天然ガスはLNGにしたものしか輸入できません。東日本大震災の直後に、きわめて割高な価格で長期契約したLNGの輸入が、続いています。

日本のLNG輸入の長期契約は、原油価格に連動して価格を調整する契約となっています。これまでガス価格が下がっても、原油価格は下がりませんでしたので、日本のLNG輸入価格は下がりませんでした。最近、原油価格が急落したことで、やっと日本もその恩恵を受けられるようになります。

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。