物質・材料研究機構(NIMS)は11月26日、側鎖を変えた分子を混ぜ合わせることにより、分子が自発的に集合する現象(自己組織化)の開始時刻を制御し、事前にプログラムした通りに自己組織化を進める手法を開発したと発表した。

同成果は、NIMS 先端的共通技術部門 高分子材料ユニットの杉安和憲主任研究員らによるもの。詳細は、ドイツ化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」に掲載される予定。

分子の自己組織化は自然界に広く見られ、光合成や神経回路など複雑な機能を発揮するシステムの構築に欠かせない現象である。現在、高度な機能を発揮させられる分子の自己組織化現象を利用して、新しい材料の開発が試みられている。しかし、自己組織化は自発的に進むため、いわば"分子まかせ"であり、意図的に制御することは非常に困難である。特に、自己組織化の開始時間を制御するなど、現象を時間的にコントロールする研究はほとんど進んでいなかった。

今回、2種類の自己組織化構造を有する分子を使って研究を行った。一方の自己組織化構造は素早く生じてエネルギー的に安定ではないが、最終的にはエネルギー的になり、より安定なもう片方の自己組織化構造が一定時間経過後に形成される。また、この分子の側鎖を変えることにより、エネルギーの安定状態を逆転させ、素早く生じる自己組織化構造のみを形成する分子も作ることができたという。そして、この2種類の分子の混合比率を変えることで、当初のエネルギー的に安定な構造への自己組織化が始まる時間を制御することに成功した。今回成功した時間的な制御は、複数の化学種が作りだす分子のネットワークによって組織化が進んでいるという点で、生体の"体内時計"のメカニズムとも類似しているという。

なお、自己組織化は、材料科学、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーなど多岐にわたる領域で重要な概念であり、物質の新たな合成手法としても大きな注目を集めている。今後、今回の研究で開発した手法を応用し、望みのタイミングで発光させたり、導電性を変化させたりする高度なシステムの構築を目指すという。さらに将来的には、生命分子システムのように、時間の経過や外界の環境変化に応じて自律的に機能するスマートマテリアルへの展開が期待されるとコメントしている。

ポルフィリン分子1は、自己組織化の初期では、粒子状構造が素早く形成されるが、時間経過とともに粒子状構造は消失し、エネルギー的により安定な繊維状構造が形成される。一方のポルフィリン分子3は、ポルフィリン分子骨格に立体的に大きなサイズの分子で修飾してあり、数ヶ月観察しても粒子状構造を維持している。(a)この1と3を混合することによって調整した粒子状構造は、ある誘導期の後に消失し、その後、繊維状構造が形成されたという。(b)この誘導期をポルフィリン分子1と3の混合比によって制御することができたとしている