円安が止まらない。今週に入って対ドルで119円近くまで下落した。安倍首相が消費税再増税の先送りを決断し、衆院を解散したことで拍車がかかった。少し前は、「消費税再増税実施=アベノミクス前進=日銀の金融緩和による支援=円安」、逆に、「消費税再増税見送り=アベノミクスの躓(つまづ)き=日銀の支援は期待薄=円高」とのシナリオも喧伝されていたから、状況は大きく変わったというほかない。

2年間のアベノミクスのもとで、景気が後退局面に入り、インフレ目標の達成も困難ということで、日本が景気低迷・デフレのリスク・財政危機から脱出するには、結局は「円安」しかないと外国人投資家が見切ったのかもしれない。

そうしたなか、日本国債の格付けを見直す動きも出てきた。格下げということになれば、政府の信用力の低下であり、「日本売り」、すなわち株安 / 債券安(金利高) / 円安の要因となりかねない。日本の長期金利はスイスを除けば、先進国中で最低なので、「日本国債売り」は現実のものとなっていない。ただ、国債のネット発行額を上回る日銀の購入が金利上昇を抑え込んでいるためだとすれば、足下の円安こそ「日本売り」の兆候と捉えるべきかもしれない。

日本国債の保証料であるクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)は9月中旬を底にジリジリと上昇している。まだまだ水準は低いとはいえ、あまり気持ちの良いものではない。

一部の勇ましい投資家からは、円は対ドルで、2007年につけた124円どころか、2002年につけた135円を超え、1998年以来となる140円台に乗せるとの予想も聞こえてきた。1998年といえば、日本で大手銀行が破たんするなど金融危機が一段と深刻化し、「日本売り」が大きなテーマだった。世界経済の状況は当時と現在とでは大きく異なるだろうし、さすがに、現時点で1ドル=140円台との予測は飛躍しすぎだろうが、下落に歯止めがかからなくなる「悪い円安」のシナリオも頭の片隅に置いておくべきかもしれない。

今年9月の金融政策決定会合後の記者会見で、黒田日銀総裁は、「(消費税増税が行われない場合には、)仮に政府の財政健全化の意思や努力について市場から疑念を持たれると――確率は非常に低いとは思いますが、そのような事態が起こってしまうと――、政府・日銀としても、対応のしようがないということにもなりかねません」と語っている。黒田総裁は、「国債暴落(金利急騰)」を念頭に置いていたのだろうが、「悪い円安」にも同じことが言えそうだ。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。