天才アタッカー・宇佐美貴史の代表入りまでの道のりを探る

年内最後の日本代表戦がたけなわだ。18日にオーストラリア代表戦が行われる大阪には、アギーレジャパン入りを熱望している天才がいる。国内ナンバーワンの攻撃力を搭載したFW宇佐美貴史(ガンバ大阪)は、なぜメキシコ人指揮官の構想に入らないのだろうか。

国内最高クラスのFWが代表に呼ばれない不思議

キレ味鋭いドリブル。味方を巧みに操るパスセンス。幅広い視野。多彩なシュートテクニック。そして、フィニッシュの精度の高さ。すべての攻撃的な要素をハイレベルで搭載している宇佐美を、国内最高峰のアタッカーの一人と位置づけてもおそらく異論はないだろう。

1992年5月生まれの22歳という若さにして、ヨーロッパを代表する強豪バイエルン・ミュンヘンでプレーした濃厚な経験も持つ。先のナビスコカップを制し、J1で2位につけ、天皇杯ではベスト4に進出するなど、国内三冠獲得を狙うガンバをけん引するエースが、なぜか日本代表とは縁がない。

「選ばれるのは当然であり、その上で何ができるのかが問われてくる」。

日本代表の新監督にハビエル・アギーレ氏が就任した直後の8月中旬。代表復帰への自信をはばかることなく公言していた宇佐美だったが、3度に及んだメンバー発表のリストにその名前が刻まれることはなかった。いまではどこか割り切った口調で、こう語っているほどだ。

「代表に呼ばれるのにふさわしい結果を、まだ出していませんからね」。

ボールを持っていない88分間で垣間見せる淡泊さ

開幕前に左腓骨(ひこつ)筋腱を脱臼して、大きく出遅れた今シーズン。夏場以降に調子を上げてきたものの、23試合に出場して8ゴールという結果は、宇佐美本人にとっては不本意なのだろう。

しかしながら、メキシコ人指揮官の眼鏡にかなわない理由は別の次元にある。ヒントは、アギーレ監督自らが明かした選手選考のポイントにある。

「1試合90分間の中で、インプレーの時間は45分間から48分間くらい。ピッチには22人が立っていて、ボールはひとつだけ。平均すると1人がボールを持つのは2分間となり、残る88分間はボールを持っていない。その88分間の中で何をしているのかを私は見ている」。

攻撃系の選手に守備が求められることは、あらためて言うまでもない。相手ボールをいかに早く奪い、素早い攻撃へ転じられるか。現代サッカーの生命線となるテーマで、残念ながら宇佐美は極めて淡泊だと表現せざるを得ない。

非凡な才能ゆえ、体に染みついた悪癖

地元・京都の長岡京SSで年間平均200ゴールをあげ、「天才」と呼ばれた宇佐美は、中学進学と同時にガンバのジュニアユースに入団。同世代では才能が突出しているゆえに、ピッチで「王様」として君臨した。

例えば、守備面では「ボールは奪うのではなく、味方から与えられる」となる。悪癖を矯正させようと、ガンバは14歳で高校年代のユースへ、18歳でトップチームへといわゆる「飛び級」で昇格させることで、宇佐美に刺激を与えてきた。

しかし、体に染みついた習慣は簡単には変えられない。日本サッカー協会関係者は「攻撃面では突出している」と宇佐美を評しながら、アギーレ監督の本音をこう代弁している。

「ガンバでは守備を免除されている部分があるかもしれないけど、あれだけボールのないところで動かないと代表では怖くて使えない」。

アギーレジャパンは3トップを採用している。宇佐美が入るとすれば左ウイングだが、相手ボール時には中盤のスペースをケアする仕事も求められる。同じ22歳のルーキー・武藤嘉紀(FC東京)が重宝される理由は、守備も含めた献身的なプレーが評価されているからに他ならない。「88分間」の質を改善させることが、代表入りへの近道となるわけだ。

ナビスコカップ決勝で見せた守備意識の覚醒

その宇佐美のプレーに大きな変化が生じたのが、8日に埼玉スタジアムで行われたサンフレッチェ広島とのナビスコカップ決勝だった。

前半35分までに2点をリードされる逆境で、宇佐美は2トップを組むパトリックともに前線からの守備でも奔走し、攻めては巧みなパスから後半9分のパトリックの同点ゴールをアシスト。精根尽き果てたのか、逆転後の同39分にベンチに退くと号泣しながら歓喜の瞬間を迎えた。

試合後の公式会見で、ガンバの長谷川健太監督は思わず苦笑いしている。

「宇佐美もパトリックもあれくらい守備をしてくれたら楽なんだけど。決勝戦だからあれくらいやってくれたのか(どうか判断しかねる)というのが、いまの悩みの種ですね」。

宇佐美の口癖のひとつに「ガンバ愛なら誰にも負けない」がある。自らのプレーでタイトルを獲得し、育ててくれた恩を返す初めてのチャンスが意識を覚醒させたのか。決して「守備ができない選手ではない」ことを、自らの一挙手一投足で証明したことになる。

長所をさらに伸ばし、時には守備力を発揮する

憧れるワールドカップの舞台で戦うためにはどうしたらいいのか。アギーレジャパンに招集されない状況が続いても、宇佐美のスタンスは一貫している。

「僕はガンバを勝たせ、できるだけ上位に導いていくことだけを意識する。その中で高いパフォーマンスを続けられれば、自然と呼ばれると思う。プレーで『呼んでください』という意思を表現できればいいし、他の選手にはないような、本当に自分にしかできないプレーをこれからも突き詰めていきたい」。

例えば得意とするドリブル突破は相手に止められ、ボールを失うリスクも伴う。こうした場合は攻撃から守備へ素早く切り替える意識が求められるが、宇佐美はこう考える。

「僕がボールを取られなければ、チームにもっといい変化を与えられる」。

足りない部分を補うよりも、長所を異次元のレベルにまで伸ばす。一方でハイレベルかつ緊張感を伴う舞台になるほど、守備面で未知の力も発揮する。喫緊の試合ならば、勝ち点5差で追う首位・浦和レッズのホームに乗り込む22日のJ1天王山となるだろう。

そして、同じ「図式」がアルベルト・ザッケローニ前監督時代に招集こそされたものの、出場を果たしていない国際Aマッチにも当てはまる。天才ならではの気まぐれを同居させる宇佐美は、ナビスコカップ決勝を視察に訪れていたアギーレ監督の目にどのように映ったのだろうか。

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筆者プロフィール: 藤江直人(ふじえ なおと)

日本代表やJリーグなどのサッカーをメインとして、各種スポーツを鋭意取材中のフリーランスのノンフィクションライター。1964年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒。スポーツ新聞記者時代は日本リーグ時代からカバーしたサッカーをはじめ、バルセロナ、アトランタの両夏季五輪、米ニューヨーク駐在員としてMLBを中心とするアメリカスポーツを幅広く取材。スポーツ雑誌編集などを経て2007年に独立し、現在に至る。Twitterのアカウントは「@GammoGooGoo」。