京都大学は10月23日、ヒトiPS細胞から、血管構成細胞を含む、心臓組織を模した心臓組織シートを作製することに成功したと発表した。

同研究成果は、米国ルイビル大学の升本 英利 研究員(前・京都大学 心臓血管外科 特定病院助教、前・京都大学iPS細胞研究所(CiRA))、同大学CiRA増殖分化機構研究部門の山下潤 教授、同大学心臓血管外科の坂田隆造 教授らの研究グループによるもの。10月22日(現地時間)の英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

現在、拡張型心筋症注や虚血性心筋症などの、重度の心筋症の患者に対しては、心臓移植が最も有効かつ最終的な治療法とされているが、深刻なドナー不足から、心臓移植以外の有効な治療法を確立することが求められている。

重症心筋症の患者の心臓では、心筋細胞が失われているだけでなく、心臓を構成しているさまざまな細胞失われることにより組織構造が壊れ、その結果として機能低下を来す。したがって細胞の移植効果をさらに高めるには、心筋細胞だけでなくその他の心臓を構成する細胞も十分に補い、心臓組織構造として再構築することが望ましいとされている。この点で、iPS細胞は、大量に増殖させた上で多様な心臓を構成する細胞群を効率的に分化誘導することで、十分量供給できる可能性がある。

また、心臓への細胞移植治療の問題点は、心臓に注入移植された細胞が十分に生存して長期的に心筋内に留まる(生着)効率が低いことにある。山下教授らのグループは、より細胞の生存・生着を高めるような移植方法として東京女子医科大学の温度感受性培養皿を用いた細胞シート技術をヒトiPS細胞から分化誘導した心臓構成細胞に用いることにより、心臓組織を模した「心臓組織シート」を作製し、それを心疾患動物モデルに移植することで治療効果および細胞生着効果を検証した。

その結果、このヒトiPS細胞由来心臓組織シートを3層重ねたものを、ラット心筋梗塞モデルに移植したところ、移植後2カ月の経過観察期間において、心筋梗塞により一旦障害された心機能の回復が認められたという。また、組織学的検査では、移植4週後で、9例中4例において移植細胞の生着を認め、最大で心筋梗塞領域の44%を移植細胞が生着・補充していた(平均24.7%)。さらに生着した移植細胞領域内に、宿主ラットの心臓から伸長した血管網が形成されており、この血流供給により移植後4週にわたる長期生着が実現できたという。

同研究チームはヒトiPS細胞由来心臓組織シートについて「重症心筋症により障害された心不全に対する治療方法の一つとして、心臓再生医療の可能性につながる有用な成果と考えられる」とコメント。今後は、シートの多層化など、組織構造を改良し、シートの機能を高めることが期待される。

ヒトiPS細胞由来心臓組織シート。分化誘導した心臓構成細胞を温度感受性培養皿に播種・培養して4日後に自己拍動性心臓組織シートを得た。