高エネルギー加速器研究機構(KEK)、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(カブリIPMU)、カリフォルニア大学バークレー校、同サンディエゴ校などの研究者で構成されるPOLARBEAR実験グループ10月21日、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の光の振動の向き(偏光)の観測結果のみに基づいて、重力レンズ効果による偏光パターンを測定することに成功したと発表した。

これらの成果の詳細は、7月9日付の「Physical Review Letters」ならびに、10月20日付の「Astrophysical Journal」などに掲載されている。

CMBは、宇宙のどの方向からも一様に飛来している電磁波で、ビッグバン直後の約138億年前に発せられたことが知られている観測可能な「宇宙最古の光」。これまでの研究から、ビッグバンによる宇宙誕生から38万年後の「宇宙の晴れ上がり」において、宇宙の温度は約3000K(2700℃)であったことが推測されているほか、現在の宇宙の温度は約2.7K(-270℃)であり、空間の断熱的な膨張、すなわち宇宙が時間とともに大きくなったことを示すものとされている。

近年のCMB研究では、その偏光を測定することに注目が集まっており、中でも「偏光Bモード」と呼ばれるパターンの発見がインフレーション宇宙論の直接検証になるため、世界各地で研究が進められている。

偏光Bモードの観測手法は大きく2つあり、1つは宇宙を広い視野角で観測し、原始重力波期限の偏光Bモード(大きな渦)をターゲットとする「大角度スケール観測」であり、もう1つは狭い視野角で限られた領域を重点てきに観測し、重力レンズ起源の偏光Bモード(小さな渦)をターゲットとする「小角度スケール観測」で、POLARBEAR実験グループは、小角度スケール観測を行い、重力レンズ起源の偏光Bモードの観測に挑んできた。

POLARBEAR実験は、偏光Bモードと呼ばれるCMBに特殊な偏光パターンを検出し、原始重力波の痕跡や重力レンズ効果を精密に観測しようという試みで、チリ・アタカマ高地に建設された、直径3.5mの主鏡から成る望遠鏡と、CMBが大気を通過しやすい波長である150GHz帯の測定を可能とする超伝導検出器を用いて2012年より観測が行われてきた。

今回の研究では、銀河系のちりの影響が少ない空(約30平方度)を1年間観測し、そのデータを解析したところ、これまでの一連の実験で得られた信号強度の大きさが、偏光Bモードが存在しないと仮定した場合に偶然により得られる信号強度と4.7σほど有意に異なるという結果を得たという。これは、99.999%以上の確率で偏光Bモードの存在を示す成果であり、標準的な宇宙理論から予測される理論値とよく一致することも確認されたという。

なお、研究グループでは今後、大角度スケール観測を目指し、より広い視野角の観測を行っていくほか、より高精度な測定が可能なPOLARBEAR-2受信機を新たに設置することで、重力レンズ起源・原始重力波起源の偏光Bモードの精密観測を目指すとしている。また、POLARBEAR-2受信機を3台同時に使用するサイモンズ・アレイ・プロジェクトの準備も進められているとのことで、その高精度な測定能力を活用することで、ニュートリノ質量和の精密測定とインフレーション理論の定量的検証を実現する予定だとしている。

POLARBEAR実験で使われている超伝導検出器アレイ。全部で1274個の超伝導検出器を使用している。図のようにハニカム構造を持つ7つのモジュールを組み合わせて受信面を作る。モジュール当たり91ピクセル、さらにピクセル当たり2つのボロメターと呼ばれるアンテナが入っている

これまでの偏光Bモード測定実験の結果(各実験の名称は図中左上に列記されている)をまとめた図。横軸は視野角の大きさ、縦軸は偏光Bモード信号の強さを示す。赤十字の点が今回POLARBEAR実験で測定された点。緑十字の点はBICEP2実験の結果