江戸時代後期に存在したとされた黄色の朝顔は「幻の花」と呼ばれ、「黄色い朝顔だけは追いかけるな」をキャッチコピーにした東野圭吾さんの「夢幻花」や梶よう子さんの「一朝の夢」の小説にも登場する。その黄色い朝顔を咲かせることに、基礎生物学研究所(愛知県岡崎市)の星野敦(ほしの あつし)助教らがついに成功した。これは夢か幻か。朝顔ファンを歓喜させ、花の色や形の研究に刺激を与える成果として注目される。鹿児島大学、サントリーグローバルイノベーションセンターと共同研究で、10月10日発表した。

写真1. 今回作出した黄色い朝顔(左)と、元になった54Y系統のクリーム色の朝顔(右)(提供:基礎生物学研究所)

朝顔の野生型は青い花を咲かせる。日本で変化朝顔の栽培と品種作りが盛んになった江戸時代に、赤、桃、紫、茶、白など多彩な色が現れた。黄色の朝顔は、江戸時代後期の朝顔図譜に描かれて記録されているが、その後、途絶えて姿を消した。サントリーが世に出した青色のバラと同じように、黄色の朝顔は園芸家にとって「幻の花」だった。

図. 花に含まれる色素の合成経路

写真2. 基礎生物学研究所で栽培される黄色い朝顔(提供:基礎生物学研究所)

研究グループは花々の色素の合成経路をまず解明した。黄色い花には、オーロンといった黄色い色素が含まれているが、これを大量に含む朝顔は存在しない。黄色いキンギョソウの花の中で黄色の色素が作られる仕組みを、クリーム色の朝顔の54Y系統に導入した。この朝顔の系統は、カルコンという物質から青や赤などに発色するアントシアニンを合成できず、代わりにカルコンが蓄積して、花弁が開ききらず、縮みやすいことがわかっている。

この54Y系統の胚を培養して、カルコンから黄色のオーロンを作り出すキンギョソウの2種類の遺伝子を組み込んだ。この培養胚から育てた朝顔はキンギョソウと同じようにオーロンを合成して、黄色くなった。また、花弁の縮みもなくなって、きれいに咲く花が増えた。「追いかけるな」と小説の中で警告された黄色い朝顔がこうして再現された。

黄色い朝顔を作った星野敦さんは「江戸時代の黄色い朝顔はあったかどうか、今となれば、証明のしようがないが、あったと信じて再現した。今回作出した黄色い朝顔と、元の54Y系統を比較すれば、花の発色や縮むという花弁の形態の仕組みが明らかになるだろう。この黄色い朝顔は基礎研究の段階で、新品種として売り出すことはまだ難しい」と話している。一般の人にとって黄色い朝顔はなお「夢幻花」といえそうだ。