東京農工大学は10月10日、大型台風にも耐えられる最強のイネとして知られる「リーフスター」の強さの謎を解明したと発表した。

同研究成果は同大学大学院農学研究院生物生産科学部門の大川泰一郎 准教授と、名古屋大学、富山県農林水産総合技術センター、農業生物資源研究所との共同研究によるもので、10月9日(現地時間)の英科学誌「Scientific Reports 」に掲載された。

「リーフスター」は同大学と農業生物資源研究所が2008年に共同育成した品種で、「中国117号」と「コシヒカリ」を親に持ち、非常に強い茎をもちながら、消化性・糖化性の効率を低下させるリグニンという化合物の含有率が少ないという特長をもつ。

消化性は飼料として、糖化性はバイオ燃料原料として利用する際に必要な性質で、多用途のイネをつくるためにはリグニンの含有率を抑える必要がある。しかし、リグニンは植物にとって構造的な強度を高めるのに重要な物質であることが知られており、なぜ「リーフスター」は強度の高い茎を持ちながらリグニン含有率が低いのかわかっていなかった。

「リーフスター」は親の「中国117号」と同様、籾と茎の部分が黄褐色に着色するゴールドハル形質を見せるが、これがリグニン合成酵素の変異によって生じることが最近報告された。そこで同研究グループは、「リーフスター」とその両親におけるリグニン合成酵素の遺伝変異と低リグニン性の関係、低リグニンでも強い茎を持つ「リーフスター」特有の新形質を調べたという。

その結果、「リーフスター」のゴールドハル形質は「中国117」号からの遺伝ではなく、偶発的に異変が生じたことが判明。調査を進めたところ、「リーフスター」は茎の細胞壁を構成するセルロース、ヘミセルロースの密度が高く、茎の外周部分に位置する皮膚繊維組織がよく発達しているだけでなく、内側の柔組織細胞も厚く発達していた。この形質は茎が細く強度が弱いながらも、皮膚繊維組織がよく発達する「コシヒカリ」に由来することがわかったという。

今後は、セルロース、ヘミセルロース密度を高める原因遺伝子の特定、皮層繊維組織の発達に関わるメカニズムを解明し、大型台風でも倒伏しにくい多収、高バイオマスの食用、飼料、バイオマスエネルギー用イネ品種の改良を目指す」とのこと。

(左から)コシヒカリ、リーフスター、中国 117 号

セルロース、ヘミセルロースなど(青色)のリーフスター柔細胞の細胞壁における集積

リーフスターの皮層繊維組織の発達と二次壁の肥厚