VAIOの再定義は、2008年の夏モデル発表会で示された。画像は、発表会でも特に注目された、大画面モバイル「VAIO type Z」

ソニーは、1996年のPC事業を開始したときに、VAIOのブランドに「Video Audio Integrated Operation」という意味を込めた。

ビジネス用途が中心となりつつあったPC市場において、ソニーの特色が生かせるAVに特化したPCを投入。それがVAIOらしさを象徴することにつながった。

そして、2008年には、VAIOを再定義。VAIOの意味を「Visual Audio Intelligent Organizer」とし、インテリジェンス(知性)の要素を付加し、「持ち主の気持ちを汲み取ることができる」、「人となりを表現する」、「感動をもたらす存在となる」という3つの価値と体験を提供するPCへと進化することを目指した。

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だが、VAIO株式会社になって、頭文字に意味を持たせることをやめた。

「VAIOという文字を、それぞれの意味がなにかというように分解すると、結局は、その言葉に引っ張られてしまうことになる。それに引っ張られると、それしかできないということになる」と、VAIO関取高行社長は語る。

そして、「VAIOはすでにブランドとして定着している。その上で、我々が目指すVAIOとはなにかということを、あらゆる可能性から追求していきたいと考えている」と続ける。

では、あらゆる可能性とはなにか。

VAIO株式会社は、PCメーカーとしてスタートしたが、社名をVAIOコンピュータ株式会社とはしていない。そこに、「あらゆる可能性」の意味がありそうだ。

つまり、アップルコンピュータがアップルへと社名を変更し、iPodのような音楽プレーヤーや、iPhoneのようなスマートフォンを市場に投入したこと、デルコンピュータがデルへと社名変更するとともに、PCメーカーから脱却し、サーバー、ストレージへと事業を拡大。いまやソリューションプロバイダーを目指しているのと同じロジックが当てはまりそうだ。

つまり、VAIO株式会社では、PC以外の領域への展開も、視野に入れている可能性が高いというわけだ。

VAIOが7月に発表した新製品とカタログ。現在はPCのみのラインナップだが、いつかPC以外のVAIO製品が登場するかもしれない

実際、関取高行社長は、「VAIOというブランドを付けて、おかしくないものはやっていきたい」と語る。そして、「VAIOブランドが通用するのは、デジタル領域。この市場を代表するブランドになるというところに挑戦していきたい」と語る。

この言葉を補足するように、赤羽良介副社長は「タブレットやスマホがあるかもしれない。また、考え方によっては、ロボットや白物家電、自動車関連商品といったものを投入する可能性があるかもしれない」とする。

赤羽副社長は可能性としての話をするが、関係者などによると、今年秋にも、VAIOブランドのタブレットの試作品が、一部で公開されることになるという話もある。

関取社長は、「最初は、とにかく集中して土台を作ることに取り組む。第2ステップでは、ある特定の顧客をがっちり掴むことに力を注ぎたい。会社の安定度が増したところで、いよいよ成長戦略に踏み出す。PC以外の製品にも幅を広げたり、海外ビジネスへの進出といったことも考えられる」と語る。

前回の連載でも触れたが、米国時間2014年10月4日から8日まで米ロサンゼルスで開催されるAdobe Systemsのクリエイター向けイベント「Adobe MAX」では、VAIOオリジナルの新製品が展示されることが判明している

関取社長は、VAIO株式会社は、まだスタートラインについたところであり、スタートを切っていないと表現する。「VAIOが残っていて良かった、と言われて、初めてスタートが切れたといえる」と、関取社長は考えているからだ。

「最初の製品が出て、『なるほど、これこそVAIOだ』と言ってもらえるかどうか。あるいは、これまで以上に品質が高まり、それを捉えて『良かった』といってもらえるかどうか。この時点になって、初めてスタートを切ることになる」。

また、どんな製品においても、VAIOブラントである限りは、シェアを取るためのビジネスはしないともいう。

「VAIOが長続きするためには、お客様に認めていただけるための、ひとつひとつの積み重ねが大事。使う人たちが、『もっとこんなことをやりたい』というように意欲を掻き立てられ、人々を刺激するようなもの。そして、これがVAIOだね、という製品を出し続ける」。

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スタートラインに立ったVAIOは、まもなく本当の意味でスタートを切ることになる。

陸上競技に例えてみれば、スタートラインに立ったVAIOという走者は、まだその走りを我々には見せていない。果たして、どんな走り方を見せてくれるのか。短距離ランナーなのか、長距離ランナーなのか。そして、どこでスパートをかけるランナーなのか。いずれにしろ、多くの人が熱い視線を注いで、注目すべきランナーであることには間違いない。

VAIOが、本当にベールを脱ぐのは、まもなくだ。