東北大学は9月19日、強誘電体材料の分極ドメインをナノ構造化することにより、走査型圧電応答顕微鏡(PFM)を用いて、分極自由回転状態の書き込みと読み込みに成功したと発表した。

同成果は、同大大学院 工学研究科の松本祐司教授、オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学のNagarajan Valanoor教授、米国・オークリッジ国立研究所のSergei V. Kalinin共同研究テーマリーダーらによるもの。詳細は、英国科学雑誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載された。

現在、強誘電体メモリに用いられている多くの強誘電体材料では、分極容易軸方向に沿った異なる2つの分極状態を利用して情報の書き込み、読み出しを行っている。しかし、強誘電体結晶の多くは、結晶の対称性によってその分極状態の数は限られている。これに対し、最近、強誘電体の分極容易軸方向が結晶の対称性に束縛されない、つまり分極軸が自由に回転することが、強誘電体PZT系薄膜材料で報告された。これにより、理論上は、記録密度が現状の2桁増大することが期待される。しかし、これまでは、透過型電子顕微鏡(TEM)によって、その存在が示されただけだった。

今回、研究グループは、ナノ相分離構造を精密に制御したエピタキシャル強誘電体薄膜により、面内の分極軸が自由回転することを見出し、走査型圧電応答顕微鏡(PFM)を用いて任意方向に分極の書き込みと読み込みが可能であることを実証した。具体的には、強誘電体の分極ドメインをナノサイズ化するために、ナノ相分離構造を用いた。層状ペロブスカイト型強誘電体Bi5Ti3FeO15(BTFO)と強磁性体CoFe2O4(CFO)を、パルスレーザ堆積(PLD)法により、共蒸着、あるいはナノレベルで交互蒸着を行うと、強誘電体BTFO母体薄膜中に柱状のCFOがナノレベルで貫通したナノ相分離構造が形成されるという。

このBTFO-CFOナノ相分離薄膜表面で、バイアス電圧を印加しながらPFMのカンチレバーを走査すると、面内でTrailing Fieldと呼ばれる電界が走査方向に生じる。さらに、この電界方向をカンチレバーの走査方向から変化させて、任意の面内方向に分極させることを試みた。その結果、読み出し走査方向を一定にして、書き込みの走査方向を変化させると、PFMの検出信号の振幅は、書き込みと読み出しの走査方向のなす角θに対し、cosθの依存性を示した。一方、位相はθに依存せず、面内の分極軸が任意方向に回転できるようになることを発見した。この要因として、BTFO-CFOの局所界面では、柱状のCFOから母体のBTFO薄膜にストレインを及ぼし、局所的な秩序構造の乱れを引き起こす。この秩序構造の局所的乱れにより、分極ドメインのサイズがナノレベルにまで小さくなり、面内の分極軸が自由回転するようになったと考えられるとしている。

今回の成果は、現在使われている強誘電体メモリの記録密度を大幅に向上させる可能性を有する。また、ナノレベルで分極構造を制御することで、強誘電体の新たな物性・機能を引き出せることを示すなど、材料科学分野に大きなインパクトをもたらすことが期待されるとコメントしている。

強誘電体の分極反転とヒステレシス

(左)BTFO-CFOナノ相分離薄膜と(右)PFMによる分極書き込み

書き込み走査方向を変化させて、読み出したPFM振幅と位相